宇宙の膨張を観測したハッブル
その後、宇宙望遠鏡の名前にもなった偉大な天文学者エドウィン・ハッブルが宇宙は膨張しているという証拠を、遠方銀河の観測から発見します。
宇宙が膨張していた理由は、後にジョルジュ・ルメートルのビッグバン理論によって説明されることになります。
宇宙はビッグバンという大爆発から誕生していて、その時の爆発の勢いが未だに続いているため、宇宙は膨張を続けているというのです。
宇宙が不変でもなんでもなく、風船のように膨らんでいるとわかった以上、もはや宇宙を不変に保つための宇宙項は必要ありません。
そこでアインシュタインは重力場方程式から宇宙項を削除し、このことを「生涯最大の過ちだった」と語ったのです。
しかし、そんなアインシュタインの「最大の過ち」は、後の世で高く評価されることになります。
蘇る宇宙項
宇宙の膨張はビッグバンの爆発がもとになっていると考えられていたため、次第に減速していくだろうと予想されていました。
ところが、1998年に、アメリカの2つの観測グループが相次いで「宇宙の膨張速度は加速している」と報告したのです。
これはIa型(いちえいがた)超新星という天体の観測から明らかにされました。
Ia型超新星とは、白色矮星が起こす特殊な超新星爆発のことを指します。
白色矮星は、核融合の燃料を使い果たして死んだ星です。しかし、これが近接した連星を持つ場合、その星の物質を奪い取って再び活性化することがあります。
白色矮星は、星として維持できる質量の限界が決まっています。
これを「チャンドラセカール限界」といい太陽の1.4倍以上の質量になることはありません。
そのため伴星から物質を奪い限界質量に達した白色矮星は、超新星爆発を起こすのです。
この超新星の重要なところは、全てがほぼ同じ質量で発生するため、ピーク時の光度がどの天体でもほぼ一致しているということです。
明るさがみんな一緒ということは、地球から見て明るさが異なるとき、それは純粋に距離の影響と考えられます。
Ia型超新星は、90億光年という遠方からでも確認でき、ハッブルの観測よりも、遠い宇宙の距離の違いを正確に測ることができました。
そこで複数のIa型超新星を観測して比べてみた結果、宇宙は減速しながら膨張しているのではなく、加速して膨張していることがわかったのです。
この発見により再評価されたのが、アインシュタインの宇宙項です。
アインシュタインは宇宙を不変に保つために宇宙定数Λというものを導入しましたが、これを膨張が強まる値に修正して使うと、なんと不思議なほど観測事実と一致したのです。
宇宙が加速膨張しているという状態は、宇宙項を含めたアインシュタインの重力場方程式で見事に表現できたのです。
この結果、宇宙には通常の物質と、足りない重力を補う未知の暗黒物質(おそらく未検出の素粒子)以外に、約7割のダークエネルギーが含まれているはずだとわかりました。
つまり、ダークエネルギーは一般的に知られているエネルギーとは意味が異なり宇宙を膨張させる「負の引力(斥力)」を表しています。
そのため、宇宙に不足している重力を補うために仮定された、暗黒物質とはまるで異なるものなのです。
そして、そのダークエネルギーとは、まさにアインシュタインが「最大の過ち」といった宇宙項そのものなのです。
過ちまでが成果になるとはアインシュタインは、なんともすごい人物です。
ダークエネルギーに関しては、それがなんであるのか、現在もさまざまな研究プロジェクトが勧められていますが、その正体は謎に包まれています。
そもそも宇宙が加速膨張している事実が誤りだと主張する研究も登場しています。
もしかしたら、本当にフォースの暗黒面が宇宙を広げているのかもしれません。
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参考文献
ダークエネルギーの証拠(KEK)
https://www2.kek.jp/ja/newskek/2005/julaug/darkenergy.html
宇宙の暗黒問題(東京大学宇宙理論研究所)
http://www-utap.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~suto/myresearch/SONY-angle79.pdf
暗黒エネルギー(東京大学)
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/story/newsletter/keywords/25/03.html
ライター
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。
編集者
ナゾロジー 編集部