「父が私に残した最大の遺産は『貧困』であることを皆さんに伝えたい」
5月20日、1月の台湾総統選挙に勝利した頼清徳は第8代中華民国総統に就任した。史上初の三期連続民進党政権であり、表面的には現状維持を維持しながら、潜在的には台湾の独立を志向する、中国共産党にとっての天敵でもある。
そんな台中関係の文脈が強調される中で、頼清徳に独立主義者のイメージをもつ読者は多いはずだ。当然、台湾の独立を目指している一面は頼清徳を形成する重要な要素だが、本書『頼清徳~世界の命運を握る台湾新総統~』(産経新聞出版)は、日本の報道ではあまり触れられることのない一人の人間としての隠れた一面も余すことなく紹介する。
炭鉱労働者の父を早くに亡くし、母子家庭で育った頼清徳。兄二人は中学を卒業後に専門学校を経て、早くに就職。母は子供たちを育てるために、出来る仕事は何でも引き受け、家にいないことも多かった。しかし、こういった残された家族の理解と協力で、頼清徳は学業と運動で高い成績を残して、医師の道を歩むことになる。その後政界に入り総統にまで上り詰めるのだから、苦労人は苦労人でも、いまどき珍しい立志伝の人物である。