公的医療保険の中でサラリーマンなどに扶養される人には保険料の負担がない。これは国民健康保険にはない考え方だ。扶養と認められれば家族・親族の保険料負担は軽くなる。保険の「扶養」は税と範囲が異なり、また各医療保険独自の判断もある点が要注意だ。

意外に広い扶養の範囲

日本は国民皆保険なので必ず何らかの公的医療保険に入っている。企業に勤めている人は勤め先企業の健康保険に加入している。大企業なら独自の健康保険組合があるし、そうでなければ全国健康保険協会の健康保険(協会けんぽ)に入っている。公務員などは共済組合だ。

以上の健康保険は、誰かに雇用されている人が職場で入るため「被用者保険」「職域保険」と呼ばれる。これらに入らない人は地域の市町村で国民健康保険に加入する。

実は、医療保険で「扶養」という考えがあるのは被用者保険だけだ。国民健康保険にはこの考えはない。「保険の加入者に生計を維持されている」扶養家族として認定されると、加入者本人1人分の負担で、何人もの扶養家族の医療給付が得られる。これは被用者保険の大きなメリットだ。

社会保険の扶養といえば「配偶者(妻)」を思いうかべる人が多いだろう。しかし、被扶養者の範囲は意外に広い。配偶者からして「内縁」でも含まれるのだ。所得税の所得控除では内縁関係は認められないので、社会保険の方がより範囲が広い。

配偶者や子どもだけでなく親や祖父母、兄弟姉妹も扶養の範囲だ。また、「3親等内の親族」が認められるので、「おじ・おば」「甥・姪」とその配偶者も範囲となる。ただし、収入面についての条件と、親族によっては同一世帯であるという条件を満たす必要がある。

年収130万円が原則の「収入要件」

「生計を維持されている」扶養者だと認められるためには、収入面で2つの条件を満たす必要がある。原則は「年間収入130万円未満」かつ「扶養者(保険加入者)の2分の1未満」だ。

60歳以上や障害者であれば年間収入180万円未満となる。また、別居で扶養が認められる場合は、2分の1未満ではなく、扶養者からの仕送り額より少なければよい。

社会保険で問題となる収入は、所得税での収入とは異なる点が多いので注意が必要だ。まず、所得税では前年の確定額を対象とするのに対し、社会保険での年間収入は今後の見込み額を指す点が大きく異なる。

また、よく「年収」と言われるが、正確には「月額」で判定される。協会けんぽでは月額108,333円以下とされている。多くの企業独自の組合でも同様だ。ただ、組合によって細かな違いはある。組合の判断で1カ月でもこの金額以上となれば年間130万円未満とならないと判断するところもあれば、直近の3カ月平均で考慮してくれるところもある。年間で130万円未満に収まることを別途証明すれば大丈夫なこともある。

協会けんぽでも企業の健康保険組合でも、所得税での取り扱いに比べると、医療保険は個別の事情を考慮して総合的な判断が下される余地がある。微妙な場合は所属する医療保険に問い合わせてみよう。

収入とされる範囲も税より広い。健康保険法の条文には「『報酬』とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのもの」とある。したがって通勤手当なども含まれる。通勤手当が非課税なのは、所得税法に例外的な定めがあるからだ。

協会けんぽでは、雇用保険の失業等給付や公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金についても収入に含まれる点に注意が促されている。企業独自の組合のサイトでも、考えられうる様々な収入を列挙した上で、最後にダメ押しで「その他、実質的に収入と認められるもの」という文言が添えられていることもある。

所得税では非課税や所得控除などがあって課税対象額が小さくなるが、社会保険で対象となる「収入」はより幅広いので注意が必要だ。そして、判断に迷う際は各医療保険組合に相談しよう。

場合によっては考慮すべき「同一世帯要件」

扶養する相手のうち、比較的近い親族は必ずしも同居しなくても構わない。親や祖父母(直系尊属)、配偶者、子や孫、それから自分の兄弟姉妹については同居でも別居でも構わない。配偶者には内縁関係も含まれる。ただし、同居か別居かで収入要件が変わる。

扶養の対象でも、これら以外の3親等の親族については同居している必要がある。「おじ・おば」「甥姪」などだ。親族の数え方では配偶者は自分と同じと考えるし、3親等内であればその配偶者も親族となる。つまり、「妻のおば」や「甥の妻」なども含まれる。

同居しているかどうかは、「被保険者の世帯全員の住民票」などの書類で証明する。住民票でできなければ、民生委員などに同居の証明をしてもらう。

妻に関する「106万円の壁」と「130万円の壁」

扶養されているのは女性であることが多い。この扶養から外れると保険料負担が増すために、女性の就労を阻む壁となっているとされる。よく「〇円の壁」と呼ばれるものだ。最近まであった「103万円の壁」は所得税の話で、しかも税制改正で2018年からなくなったので、ここでは考えなくてよい。社会保険で問題なのは、「106万円の壁」と「130万円の壁」だ。

給与所得者なら年収106万円で外れることも

2016年秋から、一定規模以上の会社で週20時間以上働く人も厚生年金保険・健康保険の加入者となった。2017年からは会社の規模が小さくても労使間で合意があれば、同様に社会保険に加入することになっている。

週20時間以上働くことに加え、いくつか条件があるが、その中に「1ヶ月あたりの決まった賃金が8万8000円以上であること」というものがある。12カ月分で105万6000円となるため「年収106万円の壁」と呼ばれているが、月額で考える方が正確だ。なお、この場合には、賃金には「残業代」「通勤手当」などは含めないことになっている。

パート先でこの条件に当てはまったら、会社が手続をして、妻自身が職場の社会保険の加入者となる。年収130万円未満で夫の健康保険の被扶養者として認められる立場にあっても、妻の勤務先で社会保険の対象となったらそちらに加入しなければならない。

もっとも、自分が保険料を負担する加入者になると、被扶養者にはないメリットもある。病気やケガでの医療機関での窓口負担は変わらないが、パートを休んだときに傷病手当金(出産が理由なら出産手当金)が給付される。また、医療保険は厚生年金とセットで加入するので、障害厚生年金や老齢厚生年金が多くなるというメリットもある。

一方で、国民年金・国民健康保険は、夫の扶養である状態と本人が被保険者となる場合とで保障内容はあまり変わらない。つまり、保険料を払ってもメリットが薄い。所得税制上の「103万円の壁」がなくなっても、「130万円の壁」の存在はまだ大きい。

自営業・フリーランスは個別に判断される

妻が自分で起業していたりフリーランスで仕事をしていたりする場合はどうだろうか。協会けんぽでは「自営業者についての収入額は、当該事業遂行のための必要経費を控除した額」としている。直近の「確定申告書の写し」などで証明することになっている。

ただし、企業独自の健康保険組合においては判断が分かれる。「生計を維持されている」という点をどのように見るのか組合ごとに異なるのだ。

中には「個人事業主」であるならば「自身で生計を維持できている」と判断し、扶養として認めないところがある。一方で、協会けんぽ同様に経費を引いた額が130万円以内なら扶養として認めている組合もある。ただ、その経費の認定を細かく定めていることも多い。

いくつかの健康保険組合のサイトを見ると「直接的必要経費」として原材料費などは経費と認めてもらえることが多い。「ケーキ屋さんにとっての小麦粉と卵」のような場合だ。水道光熱費は条件次第、広告費や接待費は直接的な経費とは認めないという扱いが多いようだ。

基本的に、扶養の認定は企業の健康保険組合が行う。自営業でも業種は様々だし、フリーランスだと既存の働き方と異なる点も多い。組合にとっても初めて直面する事例かもしれない。経費については個別に組合に問い合わせた方がよい。

高齢の親を被扶養者にできるかどうか

親が高齢となると、自分の収入から社会保険料を支払うのが苦しくなることもある。子が親の生活費を負担している場合、親を子の健康保険の扶養家族にできることもある。

同居しなくても可能性あり

自分の親、祖父母などは同居していなくても扶養の対象となる。ただ、配偶者の父母については同居が条件だ。

扶養の収入条件の一つは「年収130万円未満」だが、60歳を超える場合や障害者の場合はこの「130万円」が「180万円」まで範囲が広がる。

もう一つの「被保険者の年収の半分未満」という条件は、同居では変わらないが、別居の場合は親の収入が、子からの仕送り額より少ない場合で扶養と認められる。

注意すべき点は、遺族年金などの非課税の収入も社会保険の扶養認定では収入とみなされるところだ。老齢年金も所得税のような控除額はなくそのままの額が収入となる。現役時代に厚生年金に加入していた人だと月15万円以上の年金をもらっていることもあるだろう。この場合、年間180万円以上となり扶養と認められない。

また、扶養の認定は健康保険組合で異なることもある。組合によっては、親が細々とでも自営業で収入があると認めないこともある。また、仕送りをしたことが容易に分かるよう「金融機関からの送金のみ」とあらかじめ決めていることが多い。組合によっては独自の下限額を定めていることもある。

組合から見て、加入者からの仕送りで別居の親が「生計を維持されている」と明らかにするある必要がある。子が親へ不定期に手渡しでお金を渡しても、単なる「お小遣い」と区別がつかない。だから、定期的に金融機関を通じて送金している記録が求められるのだ。

75歳以上は「後期高齢者医療制度」

同居でも別居でも、75歳以上の親は子の扶養にはなれない。75歳を過ぎた高齢者は後期高齢者医療制度という全く別の医療保険に入るからだ。

公的医療保険も「保険」である以上、保険料を加入者から集めて病気やケガになった人に給付する仕組みとなっている。高齢者は病気やケガになるリスクが高く、どこの公的保険にとっても負担が重い。

そこで、75歳以上の高齢者はこれまでの公的保険を離れて、後期高齢者医療制度という独立した制度に加入する。この後期高齢者医療制度では、一人一人が被保険者となって保険料を負担するとともに、公費や他の医療保険からの支援金で運営される。

医療保険の扶養に認定されると保険料の負担がないため、経済的にはとてもお得になる。しかし、それだけに、各医療保険にとっては扶養と認定するための条件を満たしているかどうかを重視する。所得税と比較すると、実態に合わせて個別の事情を考慮してくれる面もある一方、企業組合ではより細かく条件を定めていることも多い。判断に困ったら個別に問い合わせておこう。

文・MONEY TIMES 編集部

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