「お父さん、朝ごはんまた食べるの?」
このフレーズ、実はかなり怖い。もしかしたら、認知症の前触れかもしれない。認知症は高齢者の病気と思うかもしれないが、40代や50代でも発症する人はいる。
「まだ遠い先の話」と思っていたら、いつの間にか当事者に……という事態に。そうなったときに家族に迷惑をかけないために、また、最期まで「自分らしく」いられるために、事前にしておくべきことを紹介する。
50代の若さでも認知症になる可能性がある
日本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業が行なった調査によれば、わが国の若年性認知症有病率は18歳~64歳人口10万人当たり50.9人とされている。
2023年に公開された映画「オレンジ・ランプ」のモデルとなった丹野智文氏も、30代の若さで若年性アルツハイマー型認知症と診断された当事者だ。
これらのデータや事例からも、「自分はまだ50代だから大丈夫でしょ」と過信するのではなく「もしかしたらかかるかもしれない」という前提で生きたほうが良いことがわかるだろう。
認知症でよくあるトラブル
認知症が原因で、警察沙汰になったりご近所といさかいを起こしたりする例もある。まずは、認知症でよくあるトラブルの実例をいくつか紹介しよう。
朝ごはんを何回も食べる
認知症の症状に「さっき食べたばかりの朝ごはんを何度も食べる」という症状がある。このような過食は、認知症のBPSD(行動・心理症状)の一つであり、食事したこと自体を忘れたり、満腹感が薄れたりすることが背景にある。もともと小食だったはずの家族がいきなり食欲旺盛になったら、認知症を疑ってみよう。
徘徊から行方不明に
認知症特有の行動の1つが「徘徊」だ。警察に届け出のある認知症の行方不明者は、増加している。意識障害や認知機能障害により、今何時なのか、自分がどこにいるのか見当がつかなくなる、理由もなく歩き出してしまう……など、徘徊の原因はさまざまだ。
自宅がごみ屋敷に
認知症により理解力や判断力が低下すると、ごみを出す日を忘れてしまったり、分別ができなくなったりしてしまう。その結果、ごみが急速にたまってしまい、自宅がごみ屋敷と化してしまうことも。これによりご近所トラブルに発展してしまうこともある。
お金を持たず買い物に行き万引トラブルに
買い物時にもトラブルは起こりやすい。支払いのときに小銭がうまく出せない、計算ができないなどで時間がかかり、ほかのお客を待たせてしまったり、お金を払わずに店を出て、万引扱いされてしまったりすることもある。警察沙汰になってしまう可能性もあるだろう。
認知症になる前に準備しておくべきこと
生活や介護の希望を家族に明確に伝えておく
認知症が進んだ場合、グループホームや老人ホームなど、認知症に対応する施設への入居が必要となるだろう。そのときに「どのような場所に入居したいか」「どのような介護を希望するか」を伝えておこう。なんの意思表示もしないと、自分の本意ではない介護をされることもある。健康なうちに、「認知症になってからのライフプラン」を立てておくことが大切だ。介護方針が明確になるだけでも、家族への負担は軽減できるだろう。
生活費や治療費の準備をしておく
万が一の事態はある日突然やってくる。そのときのために資金面の準備もしておくことが必要だ。毎日の生活にかかる資金、介護や通院治療に必要な資金、施設に入居するための資金を蓄えておこう。
家族が困らないように、預金通帳の口座や土地、有価証券などの資産を目録に残しておくことも忘れないこと。将来の生活のためだけでなく、相続のためにも必要不可欠な情報だ。
代理人指名手続を済ませる
認知症患者の家族がやってしまいがちな間違いが「本人に代わって預金を引き出そうとする」ことだ。横領や詐欺、家族による使い込みを防ぐ観点から、口座名義人が認知症を発症したことが金融機関に発覚した場合、口座は凍結される。認知症を発症してしまったとしても、家族が治療費に充てるなどの理由で銀行口座からお金を自由に引きだせるようにしたいなら、あらかじめ代理人指名手続を金融機関で済ませておくと良い。余力があるなら、任意後見制度の利用も検討しておこう。
大切な人へのメッセージを残しておく
家族や友人など、大切な人へのメッセージも残しておこう。遺言や手紙として残しておくのもいいが、「ビデオレター」という形で、動画におさめておいてはいかがだろうか。まだ、元気なころの姿で直接伝えられるメッセージは、家族にとって何よりの宝物になるだろう。今は、さまざまな「エンディングノート」も売られている。どのようなものがあるのか、一度チェックしてみるのもおすすめだ。
認知症は防げる?
認知症は誰でも発症しうるものであり「こうすれば絶対に防げる」という方法は存在しない。しかし、健康状態自体がもともと悪かったり、単調な生活を送っていたりしたら発症する可能性は出てくるので注意しよう。
まずは規則正しい生活とバランスの良い食事、適度な運動など、健康的な生活をおくること。また、気の合う仲間や家族との時間を大切にし、明るく好奇心を持って日々を過ごすことを心がけ、健やかに生きていこう。これらは認知症予防にもきっと役立つはずだ。
文・荒井美亜(金融ライター/ファイナンシャル・プランナー)
立教大学大学院経済学研究科を修了(会計学修士)。税理士事務所、一般企業等の経理を経験して現在は金融マネー系ライターとして活動中。日本FP協会の消費者向けイベントにも講師として登壇経験あり。