悪質な解雇との闘い
なぜ、吉田さんは懲戒解雇になったのでしょうか。取材で、次のようなこともわかりました。
吉田さんはいくつかの案件を受託することが可能でした。しかし、会社は受託することを認めませんでした。それどころか、勝手な営業活動をしたとの理由で、業務命令違反と判断されました。
さらに、業務命令違反中の活動については、不就労として処分を受けることになったのです。次に、実家の両親宛て、妻の実家宛に内容証明郵便による警告書が何度も届きました。仕事でトラブルを抱えていることを話していなかったので大変だったと言っています。
吉田さんは、東京地方裁判所へ解雇無効による地位確認と未払い賃金の支払い、損害賠償を求めて訴訟を起こしました。ところが、意外にも訴訟は有利には働きませんでした。
訴訟に移行すると、労働委員会や労働基準監督署は積極的に関与しなくなります。判断を裁判所に委ね、手を引こうとするのです。
また、訴訟はとても時間がかかります。1年半をかけて、ようやく和解勧告まで進みましたが、会社側は応じる気配がありません。無い袖は振れないとして、示談する気はないのです。
その後も、あらゆる引き伸ばし工作を仕掛け、地裁判決が出るまでに2年余りを要しました。判決が確定したにもかかわらず会社側は未払い賃金および賠償金の支払いを実行していません。
実は、このように裁判に負けても支払いに応じない事例は非常に多いのです。強制執行には多額の費用がかかる上、強制執行しても確実に取り立てができるという保証はなく、勝訴しても泣き寝入りを余儀なくされるケースは少なくありません。
ブラック企業として話題になるのは、長時間残業や残業代の未払い、パワハラなどが中心ですが、このように社員を陥れて懲戒解雇し、裁判で敗訴しても開き直って一銭も支払わない企業が存在するのです。
「究極のブラック企業」ともいえる悪質さですが、このようなブラック企業には、社会全体で対処する仕組みが必要でしょう。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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