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  1. はじめに

    2024年は日本が深い関係を有する国や地域にとっての選挙イヤーである。1月には台湾で総統選挙、立法委員選挙が行われ、11月にはアメリカ合衆国にて大統領選挙が行われる。

    それに合わせてか、はたまた偶然か、中国がグローバルサウスを巻き込んだ外交に動き始めている。サウジアラビア政府によるシーア派聖職者の処刑を契機として生じたイラン国民によるサウジアラビア大使館襲撃により、2016年1月に両国は断行した。

    中国の王毅外相は北京で両国に協議する機会を設け、2023年3月にはサウジアラビアのアイバーン国務相兼国家安全保障顧問とイランのサムハニ最高安全保障委員会書記が国交回復に合意した。中国の仲介外交の成果を世界に見せつけたのだ。

    台湾の1月の総統選挙において、中国と距離を置く民進党の頼清徳現副総統が次期総統として選出されると、米台を念頭に置いてのことか、中国は第三国で覇権を握ろうと積極的な働きかけを加速させている。

  2. 台湾の孤立化を図る中国

    オセアニアや中南米には台湾と外交関係をもつ国が多い。2023年4月20日の時点で、オセアニアではツバル、マーシャル諸島共和国、パラオ共和国、ナウル共和国、中南米ではグアテマラ、パラグアイ、ハイチ、ベリーズ、セントビンセント、セントクリストファー・ネーヴィス、セントルシアの計11か国が台湾と外交関係を結んでいた※1)。

    中南米は歴史的に台湾と外交関係を保持していた国が多く、2017年以前はこれらの国々に加えてパナマ、ドミニカ共和国、エルサルバドル、ニカラグア、ホンジュラス※2)の5か国も台湾と国交を有していたが、パナマは2017年6月12日、ドミニカ共和国は2018年4月30日、エルサルバドルは2018年8月20日、ニカラグアは2021年12月9日、ホンジュラスは2023年3月25日にそれぞれ台湾と断交し、中国と国交を樹立した。

    中南米の政治は「スウィング(Swing)」と揶揄されることがあり、急進右派と急進左派が政権を争うことが多くあり、そのため選挙の結果で大きく対外政策にも影響が出る。昨今ではたとえばアルゼンチンの大統領選挙では急進右派のミレイ候補が当選し、徹底的な親米を追求し、ドル化を推進、中央銀行の廃止に舵を切った。

    中南米のこの不安定な左右のブレの中で、一帯一路構想を掲げる中国がこの地域に経済的な働きかけを行い、それが奏功するのは当然のシナリオともいえる。

    今年に入り、その流れはオセアニア地域にも波及している。1月13日の台湾での総統選の結果を受けて、中国はオセアニアで台湾と外交関係を有する国に影響力を行使し始めている。

    前述のオセアニアの国のうち、ナウルは今年1月15日に台湾との断交を発表し、24日には北京市でナウルと中国の外相が共同コミュニケに署名し、両国は国交を樹立した※3)。また、同じくオセアニアの島国ツバルでは1月26日の総選挙で親台派のナタノ首相が落選したことにより、ツバルもナウル同様に台湾と断交し、中国と国交を樹立する可能性が現実味を帯びてきた※4)。

    2010年代後半に中南米で起きた台湾断交・中国国交ドミノが、頼清徳副総統の総統選当選を受けて、オセアニアでも生じる可能性が大いにある。