2000年前のイギリスで起きた凄惨な殺人事件の闇が暴かれました。
英ボーンマス大学(Bournemouth University)は2010年頃にイングランド南部で発見された白骨遺体を詳しく調査。
その結果、被害者は20代後半の女性で、骨の損傷具合から重労働を課されていたことがわかりました。
また首の後ろに大きな刺し傷があり、これが死因になったと見られます。
加えて、死の数週間前に何者かの暴力によって肋骨も折られていました。
遺体の下には牛と馬の骨が並べられていたことから、女性は生け贄のために殺害されたと推定されています。
研究の詳細は2024年5月14日付で学術誌『Antiquities Journal』に掲載されました。
先史時代の殺人事件の真相を暴く!
研究チームは2010年に、イングランド南部・ドーセット州にあるウィンターボーン・キングストンにて、先史時代の集落を発見しています。
集落には深さ約1.2メートルの窪みがたくさん見つかっており、それらは農作物を保存する貯蔵穴として使われていたり、あるいは遺骨を埋葬する墓となっていました。
これまでの調査から、この集落は2000年以上前のイギリスの鉄器時代に機能していたことがわかっています。
さらに窪みの発掘調査を進める中で、チームは問題の白骨遺体を見つけました。
研究主任のマーティン・スミス(Martin Smith)氏は「それまでにも遺骨が埋葬された墓はいくつも見つかっていましたが、それらはどれも丁重に配置されており、敬意を持って埋葬されたことが伺えました」と指摘。
ところが今回の遺骨はそれらとはまったく様相が違っていたのです。
この遺骨は全身の骨格がほぼ完全に残っていましたが、丁重な埋葬の跡はかけらもなく、頭を左に向けた状態でうつ伏せに放置されています。
チームはこの人物の失われた物語を明らかにすべく、詳細な調査を開始しました。
まず遺骨の年代測定から、この人物は紀元前351〜紀元前53年の間に生きていた若い女性であることが判明しています。
亡くなったときは20代後半だったようです。
また脊椎を調べてみると、年齢の若さとは裏腹に著しい骨変性と関節炎を起こしており、椎骨の間にはいくつもの損傷や摩耗が見られました。
これは日常的な重労働による肉体への負担が原因だという。
このことから女性は富裕層ではなく、集落内でも社会的地位が低く、貧しい暮らしをしていたと考えられます。
これと別にチームは女性の歯に含まれる同位体を分析してみました。(歯の同位体は幼少期に摂取した飲食物の痕跡を留めている)
その結果、彼女は集落のある場所の出身ではなく、そこから約32キロ離れた地域で生まれ育っていたことが示唆されたのです。
もしかしたら彼女は奴隷か召使として集落地につれてこられて、金持ちの主人にこき使われていたのかもしれません。
そして最終的に彼女は首の後ろの付け根あたりを何者かに刺されて、窪みの中に放置されたようです。
しかもその数週間ほど前には、胸部に手酷い暴力を受けて肋骨を骨折していました。
なぜ女性が殺害されたのかは定かでありませんが、チームは「生贄にされた可能性が最も高い」と見ています。
それというのも女性の遺骨の下に、牛と馬の骨が意図的に並べられる形で敷かれていたからです。
これを踏まえると、彼女は農作か牧畜による集落の繁栄を願うために、神への捧げ物に供された可能性があります。
スミス氏は、一般的に注目を集めるのが特権階級の人物たちの埋葬であることを踏まえた上で、「この女性の人生の物語を明らかにできたことは、鉄器時代の社会の裏側を垣間見る貴重な機会を与えてくれた」と話しました。
この状況証拠から見ると、女性は望みのない壮絶な人生を送ったと思われますが、その魂が安らかに眠りについたことを祈ります。
参考文献
Archaeologists discover victim of human sacrifice in Iron Age Dorset
元論文
BRUTALISED, BOUND AND BLED: A CASE OF LATER IRON AGE HUMAN SACRIFICE FROM WINTERBORNE KINGSTON, DORSET
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部