自動車業界で相次いで発覚している検査不正。特にトヨタ自動車は悪質性が高いとの声が多い。議決権行使助言会社のグラスルイスは豊田章男会長の再任に反対票を投じることを推奨しているが、「トヨタで自浄作用は働かないだろう」と悲観的な見方が広がっている。

 国土交通省は、トヨタの完全子会社であるダイハツ工業等で発覚した認証不正を踏まえ、型式指定を取得している自動車メーカー等85社に対し、型式指定申請における不正行為の有無等に関する調査・報告を指示。当初、4月末が提出期限だったものの、自動車メーカー側から全容調査に時間がかかっていることを理由に提出期限の延長を求める声が相次ぎ、1カ月程度の延期が認められた。その結果、5月末までに自動車メーカー計5社から、型式指定申請における不正行為が行われていたことが発覚。国交省は順次、立ち入り検査を始めた。

 特にトヨタは、2022年の日野自動車を皮切りに、ダイハツ工業、トヨタ車向けディーゼルエンジンを生産する豊田自動織機と、グループ会社で不正が相次いで発覚していた。そんななかでも、国交省から指示されるまで自主的に調査していなかったことなどから、反省がないとの批判がある。

 日野自動車やダイハツで不正が発覚した際には、「トヨタのシステムは不正が起こり得ない」などとトヨタには非がなく、あくまでもそれぞれの会社に問題があるとの姿勢だった。だが、トヨタの源流企業である豊田自動織機でも不正が明らかになり、そして今回、トヨタ本体でも不正が判明した。1月30日の記者会見で豊田会長は「(トヨタ本体の不正は)私の知っている限りない」と明言していたが、トヨタグループの“不正体質”が浮き彫りになったといっても過言ではない。

 自動車業界に精通する大手新聞社記者は、今回不正が判明した5社のなかでも「トヨタは特に悪質」と断じる。

「それぞれのメーカーごとに言い訳はありますが、トヨタはクルマの安全性を試験し評価分析を行う機関であるJNCAPで高い評価を得るために、良い数字が出るように検査の手間を省いています。いわば“データの改ざん”を行っており、特に悪質といえます」

 豊田会長は謝罪会見のなかで、国の認証制度に問題があるかのような発言をしているが、その点についても疑問視する。

「ヨーロッパなどと相互認証制度によって、それぞれの国で認証されたクルマは他国でも認証されたものとみなされます。認証制度に改善すべき点はあるとしても、その認証過程で不正があれば、日本の自動車全体の信頼を揺るがすことになりかねません。豊田会長は会見で自社の不正を『ブルータス、お前もか』などと他人事のように話していました。さらに、自社の不正は棚に上げて、国の制度に問題があると言っていましたが、あまりにも無責任です」

 これだけグループ会社で不正が続いても、トヨタは豊田会長の責任に言及する様子がみられない。議決権行使助言会社のグラスルイスは豊田会長の再任に反対票を投じるように、株主に対して助言を送っている。前出の記者は、グラスルイスの助言は当然だと言う。

「日野自動車、ダイハツ、トヨタ織機の不正のほとんどは、豊田章男氏がトップに就いている期間に行われています。豊田氏の責任は免れられず、今度の株主総会では再任の賛成率は過去最低になる公算が高いといえます」

 それでも、豊田会長が再任されることは既定路線なのだろうか。

「謝罪会見の際に豊田会長は、認証プロセスで発生した異常を管理する仕組みを年内にも構築する方針を示し、再発防止策を『自分が責任を持ってつくる』と述べています。また、発表された調査結果はあくまでも現段階のもので、調査はまだ終わっていません。つまり、『引き続き調査を続行する』『再発防止の仕組みをつくる』といった方便に使って、会長職に留まることを株主に訴えかけるのではないでしょうか」

 国交省は「型式指定申請において不正行為を行うことは、ユーザーの信頼を損ない、かつ、自動車認証制度の根幹を揺るがす行為であり、新たな不正行為が明らかになったことは極めて遺憾です」と述べており、不正を行ったメーカー各社に厳しく責任を追及していく方針を示している。

 だが、トヨタが不正体質を改善するのは困難なのかもしれない。

(文=Business Journal編集部)

提供元・Business Journal

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