金縛りと夢遊病は似ていないようで似ている

金縛りの場合、脳のほとんどが眠っている状態で、意識の一部が覚醒することが知られています。

このため、金縛りの最中は目が覚めているにもかかわらず体が動かず、現実の視界の中で夢のような体験をすることがあります。

つまり夢と現実の交錯を意識が認識している状態です。

ただ金縛りの場合、筋肉が麻痺している状態にあるため夢遊病のように体を動かすことはできません。

一方、ノンレム睡眠中の夢遊病の場合は、脳の一部が眠っている(無意識)状態でも、他の部分が覚醒し、時には目を開いた状態で他人と会話したり、車を運転するなどの複雑な行動を取ることができます。

これは睡眠中に脳の一部が活性化されることで起こり、行動は自動的に実行されますが、本人の意識的な制御は欠如していることが多いです。

このような現象は、意識が眠っている状態でも人間がかなり複雑な行動を取ることができる可能性を示唆しています。

金縛りと夢遊病は似ていないようで似ている
金縛りと夢遊病は似ていないようで似ている / Credit:Canva

また研究では記憶の残る仕組みも調べられており「意識があると記憶がある」「意識がなければ記憶がない」といった簡単な問題でないことも示されています。

研究者たちが脳の活動を調べたところ、右海馬や前頭頭頂領域が活性化していないと、夢の内容が記憶に残りにくいことがわかりました。

右海馬はエピソード記憶のエンコード、つまり出来事を覚えるための重要な役割を果たし、これが活性化されていないと夢の記憶が残りにくくなります。

また、前頭頭頂領域は作業記憶に関わる部分で、ここが活性化していないと、夢の内容を思い出すのが難しくなります。

つまり夢遊病では、意識、夢、記憶を司る脳領域のどれかの活動が欠損している状態で体が動いてしまっているのです。

今回の研究では、夢がどのように起こるかについても洞察を得ることに成功しています。

研究者たちは「患者の脳が夢の状態に近いときに脳が活性化されると、夢の記憶がそのタイミングで「生成される」ものの、夢の状態にない脳が活性化されても記憶が生成されない」と述べています。

そのため脳活動がほとんど不活性化しているときの夢遊病は意識も記憶も夢もなく、比較的単純な行動となると考えられます。

研究者たちは夢遊病の仕組みを詳しく理解することができれば、夢遊病の治療法の開発につながるだろうと述べています。

参考文献

Parasomnia: What happens inside a sleepwalker’s brain?

元論文

Shared EEG correlates between non-REM parasomnia experiences and dreams

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部