ドルトムントの前半は、完全にゲームプラン通り

マドリードの前半は、ボールポゼッションで上回るも、ボールを支配しているというよりボールを持たされている状況だった。ビニシウスの個人技に頼っての突破は際立ったが、その次がなくチームとして決定的なチャンスはなかなか作り出せなかった。それだけならまだしも、ディフェンスラインの統制ミスが度々見られ、相手に裏を取られる場面が頻発。ドルトムントに有効な攻撃を許した。

一方、ドルトムントは堅固な守備を敷きながらも、深い位置からのカウンター攻撃だけではなく高い位置でボールを奪い有効なショートカウンターを食らわせてマドリードを度々慌てさせた。

そんな時、脳裏には1997年に欧州CL初優勝を果たしたドルトムントが浮かんできた。質実剛健でいて華麗なマティアス・ザマー監督率いる当時のチームと、たった今優勢に試合を進めている黄色いユニフォームが重なって見えたのである。「これはひょっとしたら……」そう思わせるほど、ドルトムントの前半は見事だったのだ。

ドルトムントがドイツで絶大な人気を誇るビッグクラブであることは間違いないが、欧州CLの経験値ではマドリードと大きな差がある。ボールポゼッションを得意とするスペインのチームを相手にする時点でドルトムントが描いたゲームプラン通りの前半だったに違いない。

ドルトムントは14分と21分にオフサイドをかい潜って大きなチャンスを作ると、23分にはFWニクラス・フュルクルクが左足を伸ばしてシュートもゴールポストに嫌われた。悔やまれるのは、ドルトムントのリズムだった前半に先制点を奪うことが出来なかったことだ。何点も取れるチャンスがあった。もしリードできていれば、異なるシナリオもあり得ただろう。


カルロ・アンチェロッティ 写真:Getty Images

後半に立て直した流石のマドリード、刺し違える覚悟のドルトムント

欧州CLで百戦錬磨のマドリードがこのような不覚を取る展開を誰が予想しただろうか。ハーフタイムでマドリードに変化が必要なのは明らかだった。

そして後半立ち上がりから、マドリードは目を覚ましたかのように効果的な攻撃を組み立て始める。うまく立て直したマドリードとアンチェロッティ監督は流石だ。

爆発的な攻撃力を持つマドリードが本領を発揮し始めたが、ドルトムントは守りを固めることはなかった。リードしていれば守る選択肢もあっただろうが、得点を奪って勝利する道を選んだ。

シュート数は両チームとも13本で同数だった。しかし、攻めあったらマドリードに分がある。結果的には0-2で敗れたが、刺し違える覚悟で果敢に攻めたドルトムントは称賛に値する。

後ろに引いて守って0-0で試合終盤まで耐えてから1点を奪って勝利という筋書き。あるいは延長戦やPK戦に持ち込む戦い方も出来ただろうが、90分できっちり白黒つけようと勇気を持って戦い、結果としてエキサイティングな決勝戦になった。惜しくも敗れたが、賛辞を送りたい。


トニ・クロース 写真:Getty Images