イベリア半島とアフリカ大陸を隔てる「ジブラルタル海峡」では2020年頃から、シャチの一団がヨットやボートを襲撃する事件が相次いでいます。
そして最近、その恐怖の当たり屋が再び出没したようです。
今月12日、ジブラルタル海峡を帆走していた約15メートルのヨットが突如、シャチの一団に襲われて沈没させられたと報じられました。
2名の乗組員は通りがかりの石油タンカーに救助されて無事でしたが、シャチが船体を海に沈めた例は過去3年間で5回目とのことです。
なぜシャチは船を襲撃するのでしょうか?
シャチの襲撃でヨットが沈没!3年で5回目
シャチは高い知能と社会性、そして脅威的な攻撃力を持つ海洋最強の生物です。
彼らの恐ろしさにはあのホオジロザメでも全く太刀打ちできません。
その一方で、シャチは人間とのコミュニケーション能力に優れており、サメとは違って人や船を襲撃した事例はほとんどありませんでした。
ところがジブラルタル海峡では2020年半ばから、シャチの一団がヨットやボートに体当たりし、船体を破損させたり、最悪は船を沈没させる事例が多発し始めたのです。
報告によると、2020年半ばに襲撃が始まって以来、この海域におけるシャチとの接触は約700件に及び、その多くは船を旋回したり、小突いたり、強く体当たりするものだという。
ただシャチの狙いはあくまで船体だけであり、そこに乗っている人を襲ったことはなく、これまでにケガ人や死者は出ていません。
しかし稀ではあるものの、シャチの攻撃がエスカレートして船を沈没させた例が過去3年間で少なくとも4度確認されています。
ここまで来ると船の乗組員も海に落ちてしまうので、かなり危険です。
そして先日、この恐れていた事態が再び起こりました。
5月12日の午前9時頃、2名の乗組員が乗った「アルボラン・コニャック(Alboran Cognac)」という全長15メートルのヨットが、モロッコのスパーテル岬から約25.9キロの地点で、シャチの一団に襲撃されたのです。
シャチはヨットの船体と方向舵を執拗に攻撃し続け、ついには船が破損して浸水を起こし、沈没するに至ったといいます。
2名の乗組員は無線で助けを求めましたが、幸いにも近くを通りがかった石油タンカーに救助され、難を逃れたとのことです。
シャチたちは一体なぜ船を襲撃するのでしょうか?
これまでのところ、ヨットやボートへの襲撃には少なくとも15頭のシャチが関与していることがわかっているという。
しかしながら専門家らは、この襲撃の始まりは「ホワイト・グラディス(White Gladis)」と命名された1頭のメスのシャチに遡ると考えています。
ホワイト・グラディスは当時、子供を妊娠しており、近くを通ったヨットかボートに脅威やストレスを感じて、胎児を守るために攻撃を開始した可能性があるといいます。
またシャチたちは非常に高度な社会性を持っており、私たちと同じように仲間内で特定のある行動が「バズる」ことがあります。
つまり、ホワイト・グラディスの攻撃行動を見た仲間たちがそれを学習して、船に遭遇したら襲撃するのが習慣化されたと見られるのです。
さらにシャチの襲撃行動はジブラルタル海峡から離れたフランス沖でも確認されており、これは一つの群れの行動範囲としては広すぎることから、すでに複数のシャチの集団に広がっていると推測されています。
加えて、シャチの襲撃のほとんどは毎年5月〜8月の間に発生しているため、これからさらに事件が相次ぐかもしれません。
現地では船の乗組員に対し、海岸から離れすぎないよう、またシャチと遭遇しても船を止めないよう警告しています。
シャチの「殺し屋コンビ」が南アのホオジロザメを次々と殺しまくっている
参考文献
Orcas Strike Again, Sinking Yacht in Strait of Gibraltar
Orcas have attacked and sunk another boat in Europe — and experts warn there could be more attacks soon
They’re Back! Another Ship Sunk By Orca Attack In The Mediterranean
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部