レーネメッツ氏によると、エストニアにはモスクワに直接影響を受けていないさまざまなコミュニティーがあるが、モスクワへの従属はエストニアの安全保障に脅威を与える。同氏によると、バルト3国にあるモスクワ総主教庁の管轄下のエストニア正教会には10万人を超える信者がいる。イスラム教のテロ組織は西側世界の価値観に対して聖戦を呼び掛けているが、ロシア正教会のキリル1世も同じように反西側スタンスを維持し、「堕落する西側世界を打倒しなければならない」と常に主張してきた。モスクワ正教会総主教庁はイスラム・テロリストと何ら変わらないというわけだ。

ERRの報道によると、モスクワ総主教庁下にあるエストニア正教会(MPEOC)の代表者は記者会見で、「MPEOCはモスクワ総主教庁に直接従属していない。ウクライナ戦争へのロシア正教会の発言にも同意していない」と強調する一方、「ロシア正教会から完全に離脱する意向はない」と述べている。

ロシア軍のウクライナ侵攻、それを支持するロシア正教会モスクワ総主教府に抗議して、ロシア正教会離れが進んでいる。キリスト教東方正教会のウクライナ正教会は2022年5月27日、ロシア正教会のモスクワ総主教キリル1世の戦争擁護の言動に抗議して、ロシア正教会の傘下から離脱した。

ウクライナ正教会は本来、ソ連共産党政権時代からロシア正教会の管轄下にあった。同国にはウクライナ正教会と少数派の独立正教会があったが、ペトロ・ポロシェンコ前大統領(在任2014~19年)の強い支持もあって、2018年12月、ウクライナ正教会がロシア正教会から離脱し、独立した。その後、ウクライナ正教会と独立正教会が統合して現在の「ウクライナ正教会」(OKU)が誕生した。ウクライナにはモスクワ総主教のキリル1世を支持してきたウクライナ正教会(UOK)が存在してきたが、モスクワ総主教区から独立を表明したわけだ(「ウクライナ正教会独立は『善の勝利』か」2018年10月15日参考)。

UOKはモスクワ総主教区傘下から離脱した動機として、「人を殺してはならないという教えを無視し、ウクライナ戦争を支援するモスクワ総主教キリル1世の下にいることはできない」と説明している。その結果、ロシア正教会は332年間管轄してきたウクライナ正教会を完全に失い、世界の正教会での影響力は低下、モスクワ総主教にとって大きな痛手となった。

プーチン大統領とモスクワ総主教キリル1世 クレムリンHPより

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年4月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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