偉大な物理学者の遺志が引き継がれた
ピンツク氏が着目していたのは、分数量子ホール効果(FQHE)でした。
この効果が生じている物質では、電子が凝縮されて一種の「電子液体状態」になっていることがわかっています。
ピンツク氏はこの特殊な凝集物内の電子たち特定の光を照射することで、スピン数2を持つ「重力子のようなもの(キラル重力子モード:CGM)」を作り出せることに気が付き、実験装置の開発に取り掛かりました。
ですが残念なことに2022年、志半ばにして、ピンツク氏は亡くなりました。
死因は公表されていませんが、学部の教員らから届いた手紙には、死は突然だったと記されていました。
しかしピンツク氏の遺志を継ぐ研究者たちにより、実験装置はついに完成。
ガリウムヒ素半導体の薄片を極低温にした状態で強い磁場をかけて、分数量子ホール効果(FQHE)を発生させたものを用意し、実験装置による観測を行いました。
すると内部にスピン数2を持つ粒子(キラル重力子モード:CGM)が存在していることが判明。
さらに追加の測定により、エネルギーギャップやフィリング因子など理論で予測されていたものと一致する特性があることも確かめられました。
研究者たちは「CGMも重力子も量子化された計量値のゆらぎであり、そこでは時空がランダムに引っ張られたり引き延ばされている」と述べています。
天体の運動やブラックホールなど宇宙の最も大きなスケールに属する重力子と同じ性質を持つ粒子が、小さな量子世界に存在することが判明したというのは、極めて重要です。
もし今回の研究によって将来的にアインシュタインの相対性理論と量子力学を結びつける量子重力理論が完成すれば、本研究はノーベル賞級の大発見となるでしょう。
参考文献
Researchers Find First Experimental Evidence for a Graviton-like Particle in a Quantum Material
元論文
Evidence for chiral graviton modes in fractional quantum Hall liquids
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。