大きいことはいいことのようです。
米国のカリフォルニア大学デービス校で行われた研究により、1930年から1970年にかけて、若者から老人まで一貫して脳が大型化しており、平均的な脳容量が6.6%、皮質の表面積が15%も増えていることが示されました。
脳の大型化は身長・年齢・性別など他の要因を差し引いても残っており、単純に体が大きくなっただけが原因ではないようです。
さらに脳の大型化と同時に、ニューロンの接続の最適化が起きている可能性が示されました。
研究者たちは、脳の大型化によって脳の呼び能力が増加し、認知症に対する耐性が得られ、20世紀を通じたIQの底上げに寄与している可能性があると述べています。
いったいなぜ人類の脳は大型化したのでしょうか?
研究内容の詳細は2024年3月25日に『JAMA Neurology』にて掲載されました。
人類の脳は大型化している最中らしい
考古学や歴史、進化の分野では古くから「人間の脳は時代によって大きさが違うのだろうか?」という疑問が投げかけられていました。
私たち人類は数十万年前の石器時代、数千年前の古代、千年前の中世、そして数十年前の近代と時代を経るごとに文明や思想を大きく変化させてきました。
ではそのような激動のなかで、文明や思想の源となる脳は常に同じようなあり方でいつづけたのか、それとも変化し続けていたのでしょうか?
近年の研究により、万年単位の進化スケールでは、脳が小型化傾向にあることが示されています。
たとえば2万年前の人類は今の私たちよりも背が高く、脳も大きく、骨の密度も高かったことがわかっています。
しかしその後、農耕が始まる1万年前から現在にかけて背丈も脳も骨密度も低下していきました。
いくつかの研究ではその原因を、人類は自らを農耕地に縛り付けることで自己家畜化が進展したせいだと報告しています。
一方で、1800年代に始まった産業革命からは一部逆転し、産業革命以前と比べて体の大きさと脳の大きさが増大していったことがわかっています。
つまり人類の体や脳は、数万年の進化スケールでは小型化し、数百年の時代スケールでは大型化しているわけです。
では総合的にみて、現在はどうなのでしょうか?
進化と産業革命のせめぎ合い中にある、ここ数十年において、人類の脳に一貫した傾向がみられるのでしょうか?
そこで今回、カリフォルニア大学の研究者たちは、1902年から1985年の間に生まれた約5000人の脳のMRI(核磁気共鳴法)画像を分析し、世代間で脳がどのように違うかを比較しました。
(※データの収集期間は1999年から2019年にかけて行われ、被験者たちの平均年齢は58歳でした。)
結果、非常に興味深い傾向が出現しました。
上の表は被験者たちの生まれ年を10年ごとに区切り、脳の各部位ごとの変化を示したものになります。
たとえば赤の矢印は1930年代うまれの人々の脳全体の容積を示しており、青の矢印は1950年代にうまれた人々の表面積の大きさを示しています。
グラフをみると全体的に数値が上昇傾向にあるのがわかります。
具体的には「脳容量は6.6%の増加、海馬容量は5.7%の増加、白質容量は7.7%増加し、灰白質は2%増加し、表面積は14.9%増加」していました。
一方で皮質の厚さは同じ期間に2.3mmから1.9mmと5分の1以上現象していることがわかりました。
この増加傾向は被験者たちの身長・年齢・性別の要素を差し引いても維持されており、たとえば脳容量の増加はあらゆる要素を差し引いても5.9%の増加がみられました。
さらに分析を1940年代生まれの55~65歳に限定して、調査期間を10年に狭めた場合であっても、同じ傾向が維持されていました。
この結果は、脳の大型化が世代や体の大きさなどの要因を除いたとしても、終始一貫した現象であることを示しています。
つまり人類の脳はここ数十年では、身長が伸びるペースよりもさらに早く、脳が大型化していたわけです。
問題はその影響です。
脳の大型化は私たちにどんな影響を与えたのでしょうか?