クルマ好きが高ぶるロータリーモデルが復活!?
マツダMX-30・Rotary-EVを公道で試乗した。世の中にはいろいろなタイプの電動車が存在する。だが個性的なメカニズムという点でこれ以上のクルマはない。MX-30・Rotary-EVは、マツダが世界で唯一量産化に成功したロータリーエンジンを発電機として用いるシリーズ式のPHEVだ。
走行のすべてをモーターで駆動し、バッテリーのみで最大107kmの距離が走れる。そしてロータリーエンジンで発電した電力で既存の内燃エンジン車のように長距離走行もOKというオールラウンダーである。
発電用ロータリーエンジンはゼロから開発した専用品。4500rpmで53kW(72ps)の最高出力と112Nmの最大トルクを発生する830ccのワンローターである。コンパクトな利点を活かし、高出力モーター、ジェネレーターと同軸上にエンジンを配置してフロントスペースに搭載している。これに17.8kWhのリチウムイオンバッテリーと50リッターの燃料タンクを組み合わせ、トータルで十分な航続距離とかつてないドライビングの世界を実現したのが特徴だ。
走行モードはEV/ノーマル/チャージの3種。EVモードはバッテリーがある限りEVとして走りつづける。ノーマルモードではハイブリッド走行し、45%をメドにバッテリー残量が維持されるようにエンジンが自動制御される。チャージモードは、ネーミングどおりロータリーエンジンが起動し、積極的に充電を行う。バッテリー充電量は20~80%の範囲で自由に選べる。ノーマルモードでは45%に設定されているのに対し、20%まで選べる点が特徴だ。
市街地をEVモードで走りはじめる。このクルマのBEVとしての真価を味わうためだ。アクセルを強めに踏み込んでも当然ながらエンジンがかかることはない。EV状態が維持されて、いたって静かで滑らか、十分に力強い走りを楽しむことができた。市街地を過ぎ、高速道路に乗って中~高速で巡行しても、それは変わらない。高速域でもパフォーマンスは十分。暴力的な加速感こそないが、ドライバーを気持ちよくする刺激する実力の持ち主である。
純BEVのスムーズさとロータリーの鼓動が味わえるのが面白い
BEVモデルに対して、車両重量が130kg増加していることに合わせて、モーター出力はBEVの107kWから125kWに高められており、結果的に若干だがRotary-EVのほうが速くなったという。確かに走りはパワフルに感じる。
ブレーキフィールも上々だった。パワーメーターを見ると回生しているのだが、ブレーキフィール面の違和感はまったくない。実に扱いやすい。
しばらく走って、まだ十分にバッテリーが残っている状況で、ノーマルモードに切り替えた。バッテリー残量が45%以上の場合、大人しく走っているぶんにはエンジンはかからない。ただし、アクセルを強めに踏み込むとロータリーが始動し、より力強く加速できるようになる。
エンジンがかかったときの感覚は、いままで経験したことのないものだ。どんな音なのかと、とても気になっていたロータリーが放つサウンドは、やはりレシプロとは別物。独特の乾いた連続音が低く控えめに聞こえてくる。車速がある程度出ていると周囲の音にかき消され、注意深く観察していないとわからない。ロータリーなので始動してもレシプロのような振動を感じないところがユニークだ。
スピーカーから発せられる演出的な走行サウンドも面白い。アクセル操作に応じたEVサウンドが奏でられ、それがエンジンがかかったときのロータリー音とうまく連携する。アクセルワイドオープンでは2300〜4500rpmの間でスロットル操作と連動したサウンドが耳に届き、パワーメーターがめいっぱい振り切れると、そこで一定になる。条件がそろうとコースティングする。車速やアクセルの踏み加減によって、ドライバーの意図を読み取るかのようにエンジンがかかり、求めた加速を得ることができた。エンジンの存在を煩わしく感じる場面はまったくなかった。
WLTCモードのハイブリッド燃費は15.4km/リッターと意外に低い。この点は、あまり気にする必要はないだろう。MX-30・Rotary-EVは基本的にBEVであって、燃費が問われるシチュエーションは限定的と考えられるからだ。何しろBEVとして107kmも走るのだ。
充電は、PHEVとしては珍しく、普通に加えて急速にも対応している。とはいえ基本はBEVに軸足を置いたクルマである。急速充電ができるのは当たり前のことだ。
外部給電の機能も充実。別売の機器を組み合わせると最大で一般家庭約9.1日分の電力供給が可能だ。
フットワークも申し分ない。600km+αを走れる電動車としては車重がかなり軽いほうとはいえ、BEV版よりも増した車重に見合うよう足回りは強化されている。BEVやマイルドHEVのMX-30が、まるで路面をなめるかのようにしなやかだったことを思うと、いくぶん引き締まった印象は受けるが、MX-30の美点は失われていない。Rotary-EVの乗り心地は、ハイレベルに仕上がっている。加えて、電動化により進化したGベクタリング・コントロール(GVC)は違和感がほぼなく、まさしく意のままに操れる感覚をサポートする。
ロータリーを積むことで大いに注目を集めているMX-30・Rotary-EVは、発電用に特化したとはいえロータリー特有の味わいが楽しめるクルマだった。
往年のロータリー・ファンの期待に応えるとともに、1台の独創的な電動車としても、目を見張る完成度の持ち主である。