隠れた実力車が5年ぶりに大幅改良
UXは2018年にデビュー。強豪ひしめくCセグメントのプレミアムクロスオーバーSUVとして開発された。登場以降、レクサスの「Always On」の精神で進化・熟成が行われてきたが、5年目にして初の大幅改良を実施。魅力を一段と鮮明にした。
ポイントはパワートレーンの進化だ。今回ガソリン車が廃止され、HEV(ハイブリッド)とBEVの2本立て、つまり電動車100%になった。ハイブリッドは2リッター直4+THSⅡの基本構成はそのままに第5世代に刷新。エンジンの出力アップ(146ps/188Nm→152ps/188Nm)、高出力モーター(109ps/202Nm→113ps/206Nm)の採用、そしてリチウムイオンバッテリー(従来はニッケル水素)搭載が目を引く。制御システムも変更され、システム出力は従来比+15psの199psを発揮。実力アップを受け、車名はUX250hからUX300hに変更された。
駆動方式はFFとAWD。後輪をモーターで駆動するE-FOURにも大きく手が入った。リアモーター出力を大幅に増強(7ps/55Nm→41ps/84Nm)。従来モデルは発進用アシストに割り切っていたが、新型は全車速でアシストを行うほか、コーナリング時に駆動力制御も行う。
シャシー回りのリファインも忘れていない。すでに2022年の改良時にサイドドア/バックドア開口部を中心にスポット打点20点が追加されているが、今回は骨格自体の強靭化を実施した。ラジエターサポートへのブレース追加、リアロアバックパネル下端のガセット追加、サスペンション締め付けトルク強化が主要メニュー。これに伴い、サスペンションセッティングの見直しと制御系のアップデート(ライントレース制御/フラットボディ制御)が行われている。トヨタ下山テストコースで試乗してきたので報告しよう。試乗車はFFがLパッケージ、AWDがFスポーツだ。
ぐっと「電動車感」を増した走りが好印象。ハンドリングの進化も明確
FF/AWD とも、走り始めから力強さを感じた。とくにAWDはぐんとたくましくなった。注目は電動車感。全域でモーターアシストを明確に実感するフィーリングになっている。具体的には、エンジンが苦手な領域をモーターがつねに先回りしてアシストする印象が強い。エンジン回転を上げることなくトルクを活かした加速が味わえる。スムーズで静か、実に気持ちがいい。ガソリン車でたとえるなら排気量がアップしたようなイメージである。
アクセルをグッと踏み込むとエンジン音はそれなりに聞こえてくる。だが、あまり気にならない。ノイジーに感じなかった要因はダッシュパネルへの制振材追加や高減衰タイプに変更されたルーフライナー吸音材によって、音の伝わり方、聞こえ方が変わったからだろう。
ハンドリングの進化も明確だった。新型は、走りの考え方はそのままに 「キレ」が増している。精度がより高まった。ステアリングを切り始めてからのクルマの動きのよさは印象的なほど。しかも従来よりも前輪への依存が少ない旋回姿勢なので、安心感が増した。リアの安定感も高い。そのうえでフラットライドを感じるバネ下の追従性を実現したのはさすが。UXのフットワークは、レクサスが目指す「すっきり(雑味を取り除き本質追求)」と「奥深い(人/路面/環境を問わない懐の深さ)」を見事に融合、より濃厚になっている。
しかもAWDは、これらの印象に加えて後輪の駆動を上手に使いながら旋回、アンダーステア最小限のオンザレールの走りを実現していた。DIRECT4ほどではないものの、ステアリングではなくアクセルで曲がる感覚は、RZに近い。抜群のコントロール性は、新時代のハイブリッドスポーツと呼べる。従来はFスポーツなら軽快な動きのFF推しだったが、新型は断然AWDがお勧めだ。
ハイブリッドに加えて、BEVのUX300eにも試乗した。2023年3月にバッテリー容量を増加(54.4→72.8kWh)しているが、今回はバッテリー温度のコントロールにより急速充電の受け入れ性能向上(従来比で25%短縮)が図られた(航続距離は512kmと変更なし)。シャシー系の変更はハイブリッドモデルに準ずる。従来モデルの走りは、ハイブリッドに対してよくいえば重厚、悪くいえばちょっぴりダルだった。新型は「クルマが軽くなった?」と錯覚するくらい、軽快さと機敏さをプラス。ハイブリッドと共通の「UXの味」になっている。
UXは走りに関しては鮮度をグッと引き上げた。とはいえ見た目の変更がわずかな点は残念。最近のレクサスは、走りの進化・熟成には積極的な半面、見た目の部分になると急にトーンが下がってしまう。ユーザーは「走り」だけでクルマを選ぶわけではない。内面の充実にふさわしい「見た目」の演出も大切な気がする。とはいえ、「5年熟成」ならではの味わいをかもし出すUXは魅力的だ。ヤンチャな末っ子のLBXに対して、堅実だけど骨太なUXを好むユーザーは多いだろう。