ひび割れた道路の上を自動車で走ると、車体がガタガタと揺れ、走り心地は良くありません。
自転車の場合は、ひび割れのせいで転倒してしまうことさえあるでしょう。
しかし、田舎道になればなるほど、ひび割れが補修されていないケースが多くなります。
イギリスでは、そんな問題を解決してくれるかもしれないマシンが登場しました。
イギリスのロボット開発企業「Robotiz3d」が、道路のひび割れを自動で補修してくれる自律走行マシン「ARRES Prevent」の路上テストに成功したのです。
「自律走行マシンが道路を補修する」なんて、まるで映画に出てくる近未来社会のようですが、私たちの世界はそんな社会に一歩近づいたようです。
「道路のひび割れや穴」の補修が追いつかない
道路のひび割れの多くは経年劣化が原因で生じますが、トラックの走行や地震などで一気に割れることもあります。
これのひび割れは、自動車やバイク、自転車の快適な走行を妨げ、時には事故の原因にもなりえます。
歩行者であっても、ひび割れで躓いて転倒してしまうこともあるでしょう。
また、一見危険がなさそうな小さなひび割れであっても、それを放置することで大きなトラブルに繋がることがあります。
ひび割れを長年放置するなら、そこから雨水が侵入。アスファルト混合物を剥離させ、結果として大きな穴(ポットホール)ができてしまいます。
そうなってしまうと、補修工事の規模が大きくなり、コスト面での損害も高まります。
とはいえ、世界中に張り巡らされた道路を見張り、小さなひび割れすべてに対処していくことは簡単ではありません。
ほとんどの国や地域では優先順位が設けられるため、都市から離れた地区では、ひび割れが放置されたままだったりします。
こうした道路補修問題を解決するかもしれないプロジェクトが、イギリスのハートフォードシャー州で進行中です。
ロボット開発企業「Robotiz3d」が開発した自律走行マシン「ARRES Prevent」を使って、道路のひび割れの自動修復のテストが行われているのです。
自律走行マシン「ARRES Prevent」が道路のひび割れを自動で補修する
Robotiz3d社は、イギリスのリヴァプール大学(University of Liverpool)工学部による4年間の研究を経て、2020年にスピンアウトで生まれた企業です。
彼らは道路の穴やひび割れを自律的に検出して補修できるAIマシンのシステムを開発しており、このプロジェクトは2021年からイギリスの産業助成機関である「Innovate UK」の資金提供を受けています。
そして2024年3月6日、イギリスのハードフォードシャー州の路上で自律走行マシン「ARRES Prevent」の最初のテストが行われ、無事成功しました。
このARRES Preventは、搭載されたAIによって、路面の小さな亀裂を発見することができます。
また発見するだけでなく、問題の大きさから作業の優先順位を判断できると言われています。
そして動画で分かるように、マシン下部には自動でひび割れを補修するノズルが備わっており、小さなひび割れ程度であればその場で即座に補修できます。
またARRES Preventには自律走行システムが搭載されており、自律的に道路を走行したり、遠隔地にいるオペレーターの操縦を受けたりできます。
これらの機能は、ARRES Preventが国中の道路を駆け巡り、自動で小さなひび割れを補修できることを意味します。
このマシンとシステムを投入するなら、ひび割れを早期発見・対処が可能になり、大きなひび割れや穴に発展することを防ぐはずです。
今回の試験に携わったハードフォードシャー州議会議員のアンソニー・ブラウン氏は次のように述べています。
「私たちは、この新しい技術のテストを通じて4万個を超えるポッドホール(穴)の修復に取り組んできました。
この最先端のテクノロジーを使用すれば、そもそもポッドホールの形成を防ぐことができるでしょう」
Robotiz3d社の計画では、ARRES Preventよりも大型な「ARRES Ultra」を開発予定であり、このマシンが完成するなら、路面の埋め戻し、仕上げ作業、大規模なひび割れと穴の補修などが可能になると考えられています。
Robotiz3d社はマシンの性能を詳細には公開していませんが、これらの成果からすると、ARRES Preventが正式に投入される日もそう遠くはないかもしれません。
「自律走行するマシンが道路を次々と補修していく」というアイデアは、つい最近まで、私たちが抱く「SF世界のイメージ」の1つでした。
しかしそのような社会の実現は、既に目の前にまで迫っているのかもしれませんね。
参考文献
Fully autonomous street crawlers could make potholes thing of the past
Robotiz3d
World’s first pothole preventing robot passes first test with flying colours
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。