新しい人工礁は波エネルギーの95%を散逸させるかもしれない
研究チームが開発した人工礁は、独特な形状の5つの柱で構成されます。
中心の大きな柱と周囲にある4つの小さな柱が1セットになっており、このセットが海岸線から約800m離れた海底に並ぶことで、サンゴ礁のようなエネルギー散逸効果をもたらすというのです。
チームは、波が人工礁に衝突した時にどのように変化するか何度もシミュレーションし、最終的に、最適化されたこの形状にたどり着いたようです。
この5つの柱は、それぞれが離れており、波が入ってくると、水がその隙間を流れていきます。
結果として、入ってくる波エネルギーは分散し、波によって引き起こされた流れの一部が前方に衝突するのではなく、螺旋状に横に流れていきます。
そして研究チームは、幅30cm、高さ120cmの実験室サイズの人工礁(プラスチック製)を3Dプリントし、水槽の中で実験しました。
その結果、入ってくる波のエネルギーの95%以上を散逸させる可能性があると分かりました。
トリアンタフィロウ氏は、新しく設計された人工礁について、次のように述べています。
「もし、人工礁に向かって高さ6mの波が押し寄せてきたとしても、反対側では最終的に1m以下になります。
つまり、これによって波の影響が抑えられ、浸食や洪水を防ぐことができるのです」
また彼らは、この新しい設計により、既存の人工礁と同程度の波エネルギー削減効果を、10分の1の材料で達成できると計算しています。
さらにこの人工礁は、「積み重ねられた卵パック」のような隙間のあるボクセル構造にする予定であり、将来的には、大きな人工礁の内部を海洋生物が移動したり、住み着いたりできるかもしれません。
この構造について、研究チームは、「このボクセル構造は、魚が内部を移動できるようにしながらも、大きな抵抗を維持できます」と述べています。
海岸を波から守るだけでなく、環境にも優しいため、天然のサンゴ礁のような働きが期待できるというわけですね。
しかも天然のサンゴ礁と違って海域が限定されず、どこでも設置できるというメリットもあります。
今後研究チームは、マサチューセッツ州の海岸沿いの町と協力し、人工礁の試験を行いたいと考えています。
トリアンタフィロウ氏は、次のように述べています。
「これらの試験用人工礁は小さくなく、安くもありません。
長さは約1マイル(1.6km)、高さは5mであり、1マイルあたり600万ドル(約9億1000万円)ほどの費用が掛かります。
しかし、これによって嵐による数十億ドルの被害を防ぐことができます」
もちろん現段階では、開発された人工礁が、実際にどれほどの効果を発揮するかは分かりません。
それでも、こうした取り組みによって、津波の被害が少しでも無くなることを願うばかりです。
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参考文献
Artificial reef designed by MIT engineers could protect marine life, reduce storm damage
元論文
Architected materials for artificial reefs to increase storm energy dissipation
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。