世にも珍しい「擬態」の方法が見つかりました
生き物の擬態は弱肉強食の自然界を生き延びるための手段であり、通常は1匹で行われます。
しかしこのほど、中国・雲南大学の研究チームにより、オスとメスのつがいが協力して一つの花をまねる異例の擬態が発見されたのです。
2匹のペアが協力して行う擬態は世界初の事例と考えられています。
研究の詳細は2024年3月1日付で科学雑誌『Frontiers in Ecology and Environment』に掲載されました。
2匹のペアによる擬態を発見!史上初めての事例か
擬態は自然界のどこでも見られる普遍的な生存戦略です。
天敵から身を隠すために木の枝や砂場にカモフラージュする種もいれば、獲物を待ち伏せする目的で花を模倣する種もいます。
他にも、毒虫の姿に擬態して「自分は毒があるぞ」と鳥に警戒させる昆虫などもいます。
このように擬態にはさまざまなバリエーションがありますが、基本的には1匹が単独で行うものとして知られていました。
見つけられる?擬態して自然の景色に溶け込む動物たち
しかし今回、雲南大学の環境科学者が見つけた擬態の方法は、従来の常識から大きくかけ離れたものでした。
研究主任のウー・シーマオ(Wu Shi-Mao)氏とガオ・ジアングン(Gao Jiang-Yun)氏は、中国南端の雲南省にあるシーサンパンナ・タイ族自治州の熱帯雨林で調査をしていた際に、この奇妙な擬態に遭遇しました。
そこではなんと1匹ではなく、2匹のクモのペアが協力して1つの花に擬態していたというのです。
その実際の写真がこちら。
両氏によると、これはカニグモ科に属するクモの一種(学名:Tomisus guangxicus)で、下にいる大きくて白い方がメス、上に乗っかっている小さくて褐色の方がオスだといいます。
ウー氏は「私たちは最初にオスのカニグモを見つけたのですが、その下にメスがいることにはまったく気づきませんでした」と説明。
「顔を近づけて初めて、小さなオスが大きなメスの背中に横たわっている状態であるのに気づきました」といい、「つまり、彼らは私の目をうまく欺いたわけです」と話しています。
カニグモは網を張らない徘徊性のクモで、地上や草の上、枝先や花の近くで生活する種です。
ほとんどの種類が周囲の植物や地上に溶け込むカモフラージュを得意としており、天敵や獲物にバレないようジッと待ち伏せする習性を持つことで知られています。
例えば、こちらは獲物を待ち伏せするために黄色い花の中でカモフラージュするカニグモです。
新たに見つかったカニグモの擬態では、オスとメスが協力して周囲に咲いているキョウチクトウ科のホヤ属(Hoya pandurata)の花に擬態しているものと考えられています。
具体的には、体が大きくて白いメスがホヤの花びらを担当し、体が小さくて褐色のオスがホヤの雌しべを担当していました。
ウー氏によると、ホヤの花模様はサイズや体色の異なるオスとメスのペアが協力したときに初めて完璧に模倣されるものだと指摘しています。
また、オスとメスのカニグモは求愛や繁殖行動に何日間もかかるため、ある程度の期間を身近で過ごすことが珍しくありません。
ウー氏は「この長い交尾の過程において、オスとメスが互いに協力することで天敵による捕食を回避し、生存率を高めているのではないか」と述べました。
それだけでなく、獲物の待ち伏せにも役立っている可能性があるとも推測しています。
こうした2匹のペアによる協調的な擬態の例は他のどの種でも観察されたことがなく、おそらく世界で初めての発見例であるとウー氏らは考えています。
その一方で、この珍しい擬態方法はまだ一例しか見つかっていないため、本当に擬態のつもりで行っているのか、また擬態だとしたら具体的にどれほどの効果を発揮しているのかはよくわかっていません。
研究チームは、今回の擬態方法は同種の他のペア間でも一貫して見られるのかを調査していく予定です。
参考文献
Male and female crab spiders found to ‘cooperate’ to mimic a flower to fool prey and predators
Male And Female Spider Perfectly Resemble Flower In Potential Cooperative Mimicry World First
元論文
Male and female crab spiders “cooperate” to mimic a flower
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部