開発は成功するのか

 では、この開発はTC取得、そして事業化に成功する可能性は高いと考えられるのか。

「MSJは三菱重工1社に開発を託し、かつ国産にこだわったことが大きな失敗要因であったため、今後の旅客機開発は海外の有力航空機メーカーを含めて複数の企業で共同開発するのが自然の流れです。海外大手との共同開発によって、TC取得、事業化成功の可能性が高まるのは事実です。経産省は、2035年以降の次世代航空機開発に国際共同で参画するというロードマップを描いています。しかし、現状のまま参画しても、海外大手メーカーと対等に伍してはいけず下請けに甘んじることになりかねません。そこで、2035年までに、(1)大手航空機メーカーとの協業のなかで少しでも上流工程での参画を追求し、(2)小規模の事業では主導する立場を確立する、という2つのアプローチによって能力と事業基盤を飛躍的に成長させることをロードマップの前提に置いています。とはいえ、これら2つのアプローチ自体、容易なものではなく、シナリオ通り行くかは不透明です。

 また、海外を含む複数企業で共同開発することでリスクは分散されますが、これはイコール責任の分散でもあります。かつて、我が国の戦後最初の旅客機YS-11では、複数企業の大所帯がゆえに責任の所在がはっきりせず、ビジネスとしてうまくいかなかった苦い経験があります。将来の旅客機開発では、共同開発下での責任体制をどう構築するかが大きな課題となり、経産省の手腕が問われます。

 一般に、日本のメーカーは『ものづくり」にはたけていますが、それをビジネス化する際の周辺のノウハウに欠けている場合が少なからずあります。MSJもその典型で、型式証明のノウハウ等がなかった結果、事業コストが当初の7倍にも膨らみ、撤退の憂き目にあいました。今回経産省が発表した戦略指針でも、『開発のみならず安全認証やマーケティング等も含めた総合的な事業実施能力が不可欠」としており、この『総合的な事業実施能力』のことを『インテグレーション能力』と呼んでいます。しかし、このインテグレーション能力は一朝一夕に身につくものではなく、長期的課題であり大きなハードルといえるでしょう」(橋本氏)