二人の人物がお互いに小指を絡めて約束を誓う「ゆびきり」は、誰しも一度は経験したことがあるのではないだろうか。「ゆびきりげんまん うそついたら はりせんぼん のます ゆびきった」と童謡のようにメロディで唱えられる一種の” まじない”であるが、特に子供の頃などは、 その歌詞にある言葉の意味をわからずに、あるいは勘違いしたまま唱えていたという人も少なくはない。
「ゆびきりげんまん」の「げんまん」は、漢字で書くと「拳万」すなわち「一万発のげんこつ」を表しており、また「はりせんぼんのます」の「はりせんぼん」は魚ではなく「裁縫針一千本」のことである。つまり、冒頭の一節は、もしも嘘をついたら一万発のげんこつをくらわせ、さらに裁縫針を一千本飲み込ませるという、極めて強烈な制裁を加えさせることを宣言した内容となっているのだ。
また、「ゆびきり」すなわち「指を切る」というのは、江戸時代の遊郭で行なわれていたしきたりが由来であるという説が ある。当時、遊女が客である男性に対し、心中立( しんじゅうだて)といういわば「男女の普遍の愛の誓い」のしるしとして、小指の第一関節から先を切って渡していたと言われている。
更にさかのぼって室町時代、粗悪な銭の流通を禁止するために制定された『撰銭令』( えりぜにれい)の罰則において、男は斬首、女は指を切り落とされるというものがあり、 時代が下るごとに罰から誓約という形で変容していき、以後「ゆびきり」として一般へと普及していったのではないかとも考えられている。また、誓いの証という意味では、暴力団の慣習にもあった指詰めもこの流れを汲んでいるとも言われている。
しかし、このゆびきりには古いバージョンと呼ばれる歌詞が存在していると いうことをご存じだろうか。その歌詞は、「指切り かねきり 高野(こうや)の表で血吐いて来年腐って又腐れ 指切り拳万 嘘ついたら針千本飲ます」というものである。この歌詞の意味は、「約束を誓うという誠意を表すために指を切り、さらに髪を切りなさい。もしも約束を守らなければ便所の前で血を吐いて死に、 そのまま来年も(再来年も)腐り続けろ」 というきわめて呪いの意図を込めたような内容となっている。
「かねきり」は「髪切り」が転訛した言葉であり、 遊女が男に誓う上で真情を示す代表的な三つの行為「 指切り髪切り入れ黒子」のうちの一つとされている。入れ黒子とは、いわゆる”〇〇命” のような相手の名を彫り込む行為のことだ。
ただし、全国各地で唱えられる「ゆびきり」 が全て遊女のしきたりに由来するわけではないとも考えられている 。大分県では、歌のあとに一人が上に向かって、もう一人が下に向かって唾を吐いたという記録が残っているという 。唾を吐く行為は、魔除けの呪術とされている。また、 ゆびきりの際に腕を上下に振る動作は、 魂に活力を与え再生させる呪術「魂振り」 を表しているともいわれている。
このように見ると、「ゆびきり」 は誓約に関わる二者間だけの問題ではないことがよくわかる。 ゆびきりとは、神を仲介させる神事と同様の行ないであり、だからこそそれを破棄した場合の呪術性がきわめて高いまじないな のである。
【参考記事・文献】
加門七海『お咒い日和』
「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます」 の歌の意味と由来とは?
厠と川屋と「こうや」
“指切りげんまん”の本当の意味が怖すぎる。
針千本飲め+ 1万回殴る!
【本記事は「ミステリーニュースステーション・ATLAS(アトラス)」からの提供です】
【文 ナオキ・コムロ】 ニュースステーションATLAS編集部)
提供元・TOCANA
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