試算の結果、約500年後に日本人は全員「佐藤さん」になる⁈

今回の試算シミュレーションは、選択的夫婦別姓の法制化を目指して活動する一般社団法人「あすには」と、その活動に賛同する団体「Think Name Project」の発案で始まりました。

チームは本格的な試算を行うために、東北大学 高齢経済社会研究センターの吉田氏に依頼したとのことです。

試算には、政府が発表している統計データや日本の名字の99%を網羅しているウェブサイト「名字由来net」のデータが用いられました。

吉田氏によると、国内人口に占める佐藤さんの割合は毎年0.83%のペースで増えているといいます。

そこでこの伸び率をもとに、現行の夫婦同姓の法制度がこのまま続くと仮定して単純計算してみました。

その結果、国内人口に占める佐藤さんの割合は約400年後の2446年時点で50%、そして約500年後の2531年時点で100%に達すると算出されたのです。

「佐藤さん」が100%になるのは2531年と算出
「佐藤さん」が100%になるのは2531年と算出 / Credit: 東北大学 – 日本における佐藤姓増加に関する推計方法と結果について(2024:PDF)

つまり、2531年の日本はどこもかしこも「佐藤さん」で溢れかえっている状態になるという。

この試算結果について、吉田氏は「どんどん佐藤さんが増えていくと、非常に不便になる。裁判で原告も佐藤さん、被告も佐藤さん、裁判長も佐藤さん、弁護士も佐藤さん。『判決、佐藤氏の言うとおりとする』どっちが勝ったの?みたいな」と冗談めかして話しています。

では、どうしてこのようなユニークな試算シミュレーションをしようと思ったのでしょうか?

「選択的夫婦別姓を考えるきっかけに」

Think Name Projectの石塚啓(いしづか・さとし)氏は「日本は世界で唯一、結婚時に名字を変えなくてはいけません。そして、改姓の95%が女性と大きく偏っている」と話します。

日本では年間に約50万組が結婚し、その過程で名字の多様性は着実に減っており、すでに無くなってしまった名字も少なくないという。

その中で石塚氏らは、選択的夫婦別姓の導入について人々に考えてもらうきっかけになればと思い、今回の試算シミュレーションを発案したそうです。

試算を担当した吉田氏も「名字にはその地域の文化や歴史があり、名字の存続は必要ではないか」と考えています。

名字について考えるきっかけに
名字について考えるきっかけに / Credit: canva

とはいえ今回の結果は、あくまでも単純計算にもとづくシミュレーションであり、本当に2531年には日本人全員が「佐藤さん」になることはあり得ないでしょう。

研究者も調査報告の中で、

「この推計は数々の仮定のシナリオに基づく暫定的試算であり、確定した将来を示すものではありません。

試算に用いた『佐藤姓』は現行の制度の『見える化』のためのサンプルであって、『佐藤姓』そのものに対する何らかの評価をするものではありません」

と注意書きをしています。

また名字とは別に、現在の日本ではかつてないペースで少子化が進んでおり、人口が減少の一途を辿っているという大きな問題があります。

2531年に全員が「佐藤さん」になる前に、日本人自体がどれくらい残っているのかが危惧される状況です。

現実的な問題を考えると、500年後には佐藤さんでさえも存亡の危機に陥っているかもしれません。

参考文献

日本における佐藤姓増加に関する推計方法と結果について(PDF)

Everyone in Japan could be named “Sato” in 500 years, professor warns

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部