忘れられない2023年W杯の涙
ときに悔しさが涙となって溢れてしまう浜野だが、それは周囲の選手たちの心も動かしてしまうほど。とくに印象的だったのが、浜野にとって生まれて初めてのW杯出場となった、FIFA女子ワールドカップ(W杯)オーストラリア&ニュージランド大会準々決勝(2023年8月11日)での出来事だ。
なでしこジャパンは、当時FIFAランキング3位のスウェーデン代表と対戦。先にスウェーデンに2得点を許し、後半87分にMF林穂之香(ウェストハム・ユナイテッド・ウィメン)が1点を返すが、1-2で敗退となった。2大会ぶりのベスト4進出はならなかった。
この試合でアディショナルタイムの92分に途中出場した浜野。ゲーム終了のホイッスルが鳴り響くも悔しさで泣き崩れ、こぼれ落ちてくる涙と感情とで立ち上がることができなかったのだ。その姿に、相手国スウェーデン代表のDFヨンナ・アンデション(ハンマルビー)がすぐさま駆け寄り抱きしめ、さらにGKゼチラ・ムショビッチ(チェルシー)も駆けつけ、今にも押しつぶされそうな浜野の感情を分け合うようにして支え合ったのである。
この光景は、開催国オーストラリアの放送局(SBSニュース)でも取り上げられた。当時、筆者は画面を通じてなでしこ達の活躍を見ていたが、この場面が映し出された時のことをしっかりと覚えている。そして現在でも想い起こしてしまうほど、非常に印象的だった。日本を代表すること、そして周囲の多すぎるほどの期待を背負ってピッチに立つことの重さが、立ち上がれなかった浜野の姿から痛いほど感じられた。
浜野に駆け寄ったDFアンデションは、同年1月に海外挑戦をスタートした浜野の同僚でもあった。そしてGKムショビッチは現在の同僚だ。
海外挑戦の旅は始まったばかり
W杯が行われた2023年の1月から、浜野にとって初の海外クラブ挑戦の旅が始まっていた。
移籍先となったチェルシーは、イングランドのトップリーグ(WSL)で直近4シーズン(2019/20〜2022/23)連続優勝を誇る強豪クラブだ。浜野と同じポジションには、オーストラリア代表キャプテンでもあり世界が注目するストライカー、FWサム・カーの存在が大きくある。筆者は流星の如く日本からやってきた浜野が、カーを含めたチェルシーのメンバーとどんな化学変化を生むのか?と期待を膨らませていた。
しかし浜野はチェルシー移籍と同時に、スウェーデン1部のハンマルビーへと期限付き移籍。同年夏には肩を負傷してしまい、治療のためにハンマルビーとの契約満了期間を前倒してチェルシーへと戻ることになる。ハンマルビーの情報によると「浜野は公式戦で22試合出場、11得点を挙げてチームに非常に貢献してくれた」と活躍を称賛。また同クラブのスポーツディレクターを務めるヨハン・ラガー氏も「彼女は私たち(チーム)にとって重要な選手であり素晴らしい人だ」とコメントしている。
2023年も終わりに差し掛かっていた12月17日、数ヶ月間におよび肩の怪我と闘ってきた浜野がついに復帰。WSL第10節チェルシー対ブリストル・シティの試合で、浜野は背番号23のブルーユニフォーム姿で途中出場し、チェルシーでのデビュー戦を迎えた。現時点、チェルシーでは公式戦3試合に出場。旅はまだ始まったばかりである。