木材は天然の材料でありながら、加工された材料に負けないほど非常に優秀です。
調温機能に優れ、軽くて丈夫で加工も簡単であり、木の質感自体を好む人が多いことも人気の高い理由でしょう。
しかし天然素材であるが故に、製品や構造物の部品を作る場合、切り出してくる木のサイズに制限されてしまうことや、その加工過程で多くの端材が出てしまうというデメリットがあります。
そのため、木を切り出さずに木材を他の加工材料同様に自由自在に形作れたなら、かなり大きな利点があるでしょう。
そこで、アメリカのライス大学(Rice University)材料・ナノエンジニアリング学部に所属するムハマド・M・ラーマン氏ら研究チームは、「天然成分のみを用いた3Dプリント技術」を開発しました。
これによって作られた木材アイテムは、材料の無駄が出ないだけでなく、天然の木材以上の強度を持つようです。
研究の詳細は、2024年3月15日付の学術誌『Science Advances』に掲載されました。
木材の利点を残したまま、無駄を出さずに家具や建物を作る方法
天然木は、数千年にもわたって人類の建物や家具の材料として活用されてきました。
しかしそれら天然木は、ほとんどのケースで、そのままの形で使用することはありません。
必要とされる材料の形状に、切ったり削ったりして加工しなければいけないのです。
その過程で生じる多くの端材は、リサイクルされることもありますが、往々にしてゴミとなります。
環境やコストを考えたときに無駄が多いのです。
それでも木材には多くのメリットがあります。軽くて丈夫なだけでなく、加工が簡単です。
また優れた断熱性や調温機能、柔らかで温かみのある感触や香りも魅力的です。
そのため、もし木材のメリットを残したまま、自在な形に加工可能な材料を作る事が出来たとしたらこれはかなり有用な技術になります。
今回、ラーマン氏ら研究チームは、新たな3Dプリント技術を開発することで、木材と3Dプリントの「良いとこ取り」に成功しました。
3Dプリント技術では、インクを層のように重ねていくことで目的の形を作ります。
大きな材料を切ったり削ったりしないため、造形プロセスで無駄な材料が出ず、望む形状を作りやすいメリットがあります。
そこで研究チームは、木に由来する天然成分だけを用いた3Dプリント用の粘性インクを開発することにしました。
この粘性インクは、水、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、リグニンで構成されています。
セルロースは、植物細胞の細胞壁や繊維の主成分であり、人類が摂取する食物繊維の多くもセルロースです。
そしてセルロースナノファイバーとは、セルロースをナノサイズにまでほぐして微細化した素材であり、セルロースナノクリスタルは、セルロースのナノサイズの結晶です。
またリグニンもセルロースと同じく植物細胞の細胞壁の主成分であり、木材の20~35%を占めています。
このリグニンはセルロースと結合して植物体を強固にするのです。
しかも、これらセルロースとリグニンは、林業、建設業で生じる木材の端材や廃材から採取できます。