嘘をつかれて騙されるのを不思議に感ずる論調を展開する人は、きっと信頼していた人に騙されたことがないのだろう。私は、数回、信じた人に騙され、怒り心頭に発したことや絶望に打ちひしがれたことがある。疑いもなく信頼していた人から、こっぴどく裏切られたことがない人がいれば驚きだ。

信頼関係は、お互いの立場によって揺らいでくるものである。自分の欲得が信義よりもはるかに優る状況になれば、それまでの信頼など一瞬のうちに瓦解するものだと思う。特に、立場が人を変えることも少なからずある。組織のトップになって権限という甘い汁を吸い、突然に自分を過大評価して邪魔者を排除していくのを目の当たりにしてきた。権限を持てば、謙虚さを失い、恩義を失う人は少なくないのだ。

子供には「実るほど頭の下がる稲穂かな」を繰り返して教えてきた。私は大谷選手こそこれを実行している人物だと評価している。人に騙されたことを恥じる必要などどこにもない。人を騙しておらず、嘘もついていないなら、堂々と70本くらいホームランを打って欲しいものだ。

編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2024年3月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?