「ほぼ日手帳」の海外展開

「ほぼ日手帳」において随所に見られる細やかなこだわりは、日本人特有のものと思われがちだが、海外でも大きな成功を収めていると知り、大いに驚いた。2012年には英語版、2018年には中国語簡体字版が発売されており、株式会社ほぼ日の売上高全体に占める海外売上高の割合は4割を超えている(株式会社ほぼ日2023年8月期決算発表説明資料より)。

以前、知り合いの研究者から、日本語の「雑貨」に対する英語は存在しないという話を聞いたことがある。直訳すれば「general goods」などとなるが、この表現が通常、日本人が雑貨に抱くイメージと大きくずれていることは明白である。このように考えると、文房具をはじめ、日本の雑貨という商品カテゴリーの国際市場での展開には大きな可能性があるのかもしれない。

筆者の知り合いに、長年「ほぼ日手帳」を使い続けている人がいる。その手帳を取り出し、何かを書き込む仕草から、その商品を愛し、また商品を使っている自分を誇らしく思っているように感じられた。一言で表すなら「すごい商品だな、なぜこの商品はこれほど愛されているのか」と。

そのポイントは、まず「ほぼ日」全体に通じる「日常うれしいと思うこと」というユニークな価値の提供を目指し、一切の妥協なく、ユーザーと対峙してきた結果のように思われる。3.7ミリの方眼といった消費者参加型製品開発に加え、ユーザーの実際の使用例をサイトで紹介するなど、顧客との価値共創が見事に実現している。

筆者の関心領域である「商品の高付加価値化(高く売る)」と絡めると、競合他社の販売価格や市場(消費者)が受け入れてくれる価格の調査といったマーケティングリサーチに基づき、ターゲット価格を設定し、商品開発を行うという一般的なスタイルは本当に正しいのだろうかと、今回の「ほぼ日手帳」のような事例に遭遇するたび、疑問を抱かずにはいられない。

これまで多くのプレミアム商品を調査してきたが、共通するポイントは、売り手が信じる価値をどう具現化し、届け続けていくのかということであり、価格の問題は完全に後回しといった印象である。

「ほぼ日手帳」の開発に際し、もし入念なマーケティングリサーチが実施されていたなら、こだわり満載の2420円の手帳は誕生せず、誰にも見向きもされない、どこにでもある1000円程度の手帳になっていたのではないだろうか。

(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)

提供元・Business Journal

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