無響室では1時間もいると発狂する
私たちがいる場所では普通、どんなに静かな場所でも様々な音があちこちで反響しています。
スマホの着信音、外を走る車の音、遠くで響くサイレンの音など、私たちの耳は音の反響のおかげで、それらがどの方向のどれくらいの距離で鳴っているかを聞き分けられます。
ところが無響室では音の反響がないため、室内で発生する音はすべて耳に直接届くように聞こえるのです。
例えば、誰かが室内のどこで声を上げても、自分のすぐ耳元で鳴っているように聞こえるといいます。
そして、もし室内で何の音も出さずにジッとしていると、自らの心臓の音や血液の流れる音、骨のきしむ音が聞こえてきます。
さらに無音にも関わらず、耳鳴りの音が強烈に耳をつんざき、鼓膜を突き破りそうな感覚に襲われるという。
それでも室内に居座り続けると、今度は平衡感覚が失われていき、自分の力だけでは立っていられなくなって、眩暈や吐き気を催してきます。
やがて体の感覚が完全に狂ってしまい、強い不安感に苛まれ、精神のバランスが崩れてしまうのです。
オーフィールド研究所の代表であるスティーブン・J・オーフィールド(Steven J. Orfield)氏によると「無響室では椅子に座らずに30分以上いることは不可能である」という。
これまでに無響室にいた最長記録は約55分ですが、多くの人はたった数分いるだけで「出してくれ」と懇願するのだそう。
沈黙とはそれほどまでに人を狂わせる狂気の世界なのです。
無響室は音響作業をする人たちにとって最高のサウンドが作れる夢の空間であると同時に、人間の精神を蝕む最悪の環境のようです。
こちらからオーフィールド研究所にある無響室がご覧いただけます。
こちらはマイクロソフト社内にある無響室です。
参考文献
Orfield Laboratories is home to the quietest room on earth — but that’s not all
The Quietest Place On Earth Is Minus Decibels
Inside the world’s quietest room
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部