話題作『国家の尊厳』の著者で知られる評論家・先崎彰容氏による新潮選書『本居宣長「もののあはれ」と「日本」の発見』が、新潮社より5月22日(水)に発売された。

中国伝来でも、西洋由来のいずれでもない。日本オリジナルの倫理学で、日本思想史を変えた「知の巨人」本居宣長に迫る渾身の論考書として注目したい。

知の巨人に現代を代表する論客・先崎彰容氏が挑む

18世紀半ばという時代の変わり目に、日本オリジナルの思想を生みだしたのが本居宣長だ。

かつて、ドナルド・キーン氏は宣長を「日本が生んだもっとも偉大な学者の一人」と評し、「彼の著作は、ひろく文学、語学、神道の三大領域」にわたると賛辞を惜しまなかった。また、「批評の神様」と称される小林秀雄氏もまた、晩年に代表作『本居宣長』を上梓している。

宣長らが作りあげた日本オリジナルの倫理学・国学は、幕末から明治、そして昭和の戦中期にかけて隆盛を誇った。しかし、戦後は神国思想につながったとして、一転して批判されることになった。

再び東西対立が深まる時代の転換期ともいわれる現在。日本とは何か、日本人とは何かを考えるために避けて通れない「知の巨人」に、現代を代表する論客の一人、先崎彰容氏が挑む。

思想家・本居宣長の前半生を甦らせる論考書

著者である先崎彰容氏は、同書をして賛否両論ある本居宣長という思想家の前半生を甦らせようとする試みだとする。そして「もの」に触れ、「こと」に心を動かされる歌人にして源氏物語学者、古典に精通した知の巨人の実像に迫ったとも語る。

また、慶應義塾大学教授・片山杜秀氏は同書の推薦として、著者は宣長を近代的自我とも合理主義ともファシズムとも繋がらぬ思想家として見事に救済する。そういう思想のかたちは、著者の求める日本的保守主義の精髄ときっと重なる。先崎さんの多くの仕事の中でも、これは極め付きであると絶賛する。

中国から西洋へ、日本人の価値基準は常に西側に影響され続けてきた。社会秩序が大きく変容した18世紀半ば、和歌と古典とを通じて日本の精神的古層を掘り起こした国学者・本居宣長。

波乱多きその半生と思索の日々。後世の研究を紐解き、従来のもののあはれ論を一新する先崎氏の渾身の論考は、混沌として現在のその先の道標となりうる一冊になるかもしれない。

本居宣長「もののあはれ」と「日本」の発見
著者:先崎彰容
発売日:5月22日(水)
造本:新潮選書/四六判変型ソフトカバー
価格:2,090円(税込)

(高野晃彰)