実に厄介な環境汚染であるマイクロプラスチック問題なのだが、最新の研究では人間の生殖器系にも影響を及ぼしていることが報告されている。マイクロプラスチックは人間の睾丸からも発見され、精子の質を低下させている可能性があるという――。
■睾丸にマイクロプラスチックが多いほど精子数が少ない
プラスチックごみによる環境汚染が深刻さを増しているが、その中でも微細なプラスチックごみの総称であるマイクロプラスチックは、自然に分解されることはなく海洋をはじめとする環境中に長期間滞留し蓄積していくと考えられている。
5ミリメートル以下のプラスチック断片がマイクロプラスチックと定義されているが、もはや目視出来ないきわめて微細なナノプラスチックなどは人間を含む生物の身体の内部にも入り込みやすいことは明らかだ。
マイクロプラスチックは海や土壌、雨、さらには空気に至るまで環境中に蔓延しており、必然的に人間の体内にも侵入している。環境中のマイクロプラスチックと接触するだけでなく、ある種の食べ物にもかなりの量のマイクロプラスチックが含まれているのだ。
ではこのマイクロプラスチックはどのように人体に悪影響を及ぼしているのだろうか。
ニューメキシコ大学をはじめとする研究チームが2024年5月に「Toxicological Sciences」で発表した研究では、人間と犬の両方の睾丸からかなりの濃度のマイクロプラスチックが検出され、特定の形態のマイクロプラスチックが精子数に悪影響を及ぼしている可能性があることを指摘するショッキングな内容になっている。
研究チームは解剖中に採取された47個のイヌの精巣と23個の人間の精巣を分析したところ、すべての個体からマイクロプラスチックが検出された。
イヌの精巣組織中のマイクロプラスチックの平均濃度は組織1グラムあたり122.63マイクログラムであったのに対し、人間の精巣組織中のマイクロプラスチックの濃度は1グラムあたり328.44マイクログラムであった。イヌよりも人間のほうがマイクロプラスチックをより多く体内に取り込んでいたのだ。
「当初、私はマイクロプラスチックが生殖器系に侵入できるかどうか疑問に思っていました。最初にイヌの結果を受け取ったとき、私は驚きました。人間の結果を受け取ったときはさらに驚きました」と筆頭著者であるニューメキシコ大学のシャオチョン・ユ教授は語る。
さらに驚くべきはイヌのサンプルで精子数を数えてみたところ、ポリ塩化ビニル(PVC)のレベルが高いほど、精子数が少ないことが明らかになったことだ。つまり睾丸にマイクロプラスチックが多いほど、精子が少なくなっているのである。
「PVCは精子形成を妨げる化学物質を大量に放出する可能性があり、内分泌かく乱を引き起こす化学物質が含まれています」とユ教授は説明する。
これまでにも生物のホルモン作用をかく乱する物質である「環境ホルモン(内分泌かく乱物質)」が問題になっているが、マイクロプラスチックもまた生物の生殖機能に深刻な絵影響を及ぼす環境ホルモンであったことになる。
研究チームはマイクロプラスチックが最近の世界的な精子数の減少に何らかの関係があるのではないかと疑問を抱き、今後の研究課題としている。
すでに我々の身の回りには多くのマイクロプラスチックが存在しており、日々の暴露は避けられない状況にある。体内に侵入にするマイクロプラスチックをいかに最小限に留めるのかが健康上の課題になったことは間違いない。
参考:「IFLScience」ほか
文=仲田しんじ
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提供元・TOCANA
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