秋田県で行なわれている行事・風習として、ナマハゲは全国的にも有名である。仮面を付けて藁の衣装をまとった来訪神ナマハゲが家々を訪れ、「泣ぐ子は居ねが」「悪い子は居ねが」と発しながら子供や怠け者などを探して暴れるというそのインパクトは、多くの人の印象に残るものだろう。

 日本には、このような”来訪神”を迎える行事・風習というものが多く点在している。それらの多くは、豊穣や祝福をもたらす神としてされており、男鹿のナマハゲをはじめとして岩手県吉浜のスネカ、能登のアマメハギ、宮古島のパーントゥなど様々あり、重要無形民俗文化財に指定されているものもある。

 このような来訪神を迎える行事の一つに、下甑島の「トシドン」と呼ばれるものがある。毎年12月31日に鹿児島県薩摩川内市下甑島で行なわれるこの伝統行事は、2009年にユネスコの無形文化遺産にも登録された行事である。

 大晦日の夜、地元の生年や年配者が、天狗のように鼻の長い鬼のような面をつけ、シュロの皮やソテツの葉などで模した髪を振り乱し、「おるか、おるか、〇〇はおるか!来て障子を開けー!」と言って3歳から8歳の子供がいる家を訪れるのだ。その面や姿のインパクトは凄まじく、しかも複数人も登場するためたいがいの子供は泣き出してしまうという。

 トシドンは子どもの日頃の行ないに対して悪い部分を叱ったり、逆に良い部分を褒めたり、そして歌を歌わせたりする。最後には、子供を四つん這いにさせてその背中に「歳餅」(としもち)という平たく伸ばした大きい餅を置き、そのまま家族たちの元へ歳餅を背負った子供を歩かせ、トシドンたちは去って行く。

 子供に新年の誓いを立たせ、そのトシドンの渡した歳餅を食べると無事に年を取ることができると言われている。この歳餅は、一説にはお年玉の原型とも言われているという。なお、トシドンは子供だけでなく初めてその地で年を越す人の家にも訪れ、ある時新任の住職がトシドンの訪問を受け、驚いて逃げ出したという逸話もあるそうだ。

大晦日の夜に現れる“来訪神”、鹿児島県下甑島の風習「トシドン」
(画像=Created with DALL·E,『TOCANA』より 引用)

 トシドンは、新しい年の節目、特に正月を迎える「歳神」(としがみ)に「西郷どん」などに見られる「~さん」を表す「どん」が加わった名称であると言われている。このような行事・風習は近隣の離島にも多く見られ、屋久島の宮之浦や種子島の野木之平などの集落でも、トシドンあるいはトシノカンサマと呼ばれ行なわれているという。

 起源は定かではないものの、江戸時代にはすでに行なわれていたと言われている。伝承によれば、トシドンは「首切れ馬」に乗ってやってくるとも言われているが、この点は徳島に伝わる「夜行さん」の特徴とも共通していることが指摘されている。

 夜行さんは、髭を生やした一つ目の鬼の姿として描かれることが多く、首切れ馬に乗って大晦日や節分などの夜に現れ、遭遇した人間に馬の牛を足で蹴り上げるなど危害を加えると言われている。「夜行」とは、もともと神様が姿を現すことを指す言葉である。

 実際、夜行さんは特別な日に人間界に現れる来訪神のたぐいではないかとする説もあり、トシドンが零落した存在が夜行さんではないかとする説もあるという。夜行さんから逃れる方法とされる”頭に草履を乗せて伏す”という姿勢も、子供が背中に載せられるトシドンの歳餅を思わせる部分がある。

 現在では、過疎や少子化に伴いトシドンそのものの存続が危ぶまれているという問題もあり、懸命な保存などが叫ばれている貴重な行事ともなっている。一方で、神聖さを重視する一部集落では一切の取材を拒んでいるという現状もあり、今後注視すべき存在ともなっている。

【参考記事・文献】
水木しげる『妖怪・土俗神』

【アトラスラジオ関連動画】

【本記事は「ミステリーニュースステーション・ATLAS(アトラス)」からの提供です】

文=ナオキ・コムロ(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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提供元・TOCANA

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