古代中国において、君主の称号は「王」と呼ばれていたが、戦国時代になって覇者となった諸侯が王を名乗ったことで値打ちが 失われていた。そこで、秦の始皇帝が君主として初めて「皇帝」 の称号を名乗り、以後皇帝は朝貢してくる周辺国の支配者に王の称号を与えるという、王よりも格上の地位として認められるようになった。歴史上、初めて皇帝(エンペラー)を名乗ったのは秦の始皇帝であった。そして、この皇帝に対し、7世紀ごろから徐々に日本では” 皇帝との対等関係”を強調するものとして、外交文書に「天皇」 という称号を表記するようになったと言われている。
日本においては江戸時代、出島の三学者の一人であったドイツ人医師エンゲルベルト・ケンペルが『日本誌』という著書を発表しており、そこでは天皇とともに将軍が”エンペラー”とあてられ、「日本には2人のエンペラーがいる」と記したのだ。その後、明治になるとエンペラーは天皇の英訳として定着化されるようにな る。しかし、 第一次世界大戦後になると世界の殆どの皇帝は廃絶するようになっ ていき、1970年代にはほぼ世界の帝政が廃止されていった。その結果、現在で世界の中でエンペラーの称号を名乗るのは、天皇だけとなったのである。
ところで、国際的な序列として天皇はローマ法王と同列であり、その他王(女王)、大統領、首相よりも高い地位であり、世界の王室が集まった際には天皇が一番の上座に座り、エリザベス女王も天皇と同席する際は上座を譲る、といった解説がネット上などにおいて見られることがある。
だが、これについては少々怪しい。エリザベス女王の葬儀において天皇(現上皇) は第9位の席次となっており、いわゆる特別扱いはなされていない。これは、就任順で序列が決まることとなっていたためであり、この時の首席は1927年即位のルーマニア元国王であった。
そもそも、エンペラー(皇帝)がキング(王) よりも格上であるという考え方は中国由来のものであり、 西欧社会での概念とは異なった政治概念となっている。先にも言った席についても、国同士の付き合いの深さによって席次が決定することもあり、そこには称号における格の違いは無関係であると考えるのが妥当である。
だが、その一方で天皇が「特別な存在」であるという認識が強いのは事実であるという。
その理由は、第一に皇室が世界最古の王室であるという点にある。皇室は、今上天皇で126代を数える2700年近い歴史のある王室とされており、ヨーロッパ最古と言われる2位のデンマークですら1100年と遠く及ばない。
第二に、海外では革命などによって王室が廃止されるケースが少なくないに も関わらず、 敗戦という事態に及んでなお戦後も皇室が存続しているという点だ。さらには、昭和天皇が焼け野原となった全国各地をすすんで巡行したことに、道徳的にも高く評価された。何より、戦後の巡行で国民が盛大に歓待したということから、国民からのあつい敬愛が皇室の長大な歴史を保つ要因になったとも 言われている。
このように、歴史の長さと高い道徳性に支えられている存在として、天皇は世界で唯一のエンペラーとして、また世界的にも特殊な君主として認識されている。ただし、エンペラーであるから特殊ということではなく、またエンペラーの称号であるから世界で最も格上である、 ということでもないという点に注意して欲しい。ともすれば、それは皇室をダシに他国を見下す態度に映ってしまいかねないのだ。
【参考記事・文献】
「世界でたった1人のエンペラーだから」ではない… 天皇陛下が世界中から尊敬される3つの理由
欧米人が天皇を”キング”とは呼ばない深い理由
天皇は奇跡的存在、世界の主要国でエンペラーは1人だけ
【文 ナオキ・コムロ】
【本記事は「ミステリーニュースステーション・ATLAS(アトラス)」からの提供です】
文=ナオキ・コムロ(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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提供元・TOCANA
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