「エムエネch」(チャンネル登録者36万人)を運営する兄弟YouTuberが6月7日に投稿した、「トランクの中に人がいたら駐車違反は切られるのか!?【社会実験】」という動画が大きな物議を醸した。
現在、該当動画は非公開となっているが、過去に駐車違反の切符を切られた経験のある兄が、恨みのある駐車監視員相手にドッキリを敢行するという内容だった。駐車監視員は運転手が不在の状態に限り、放置車両に「放置車両確認標章」、いわゆる違反シールの取り付けができることに目をつけ、兄がトランクに入った状態で確認標章が貼られた瞬間に飛び出して、駐車監視員を驚かせた。
そこで今回は、交通ジャーナリストの今井亮一氏に、今回の問題の争点となった駐車監視員の対応などについて解説してもらった。
“放置車両”を発見次第報告していく駐車監視員は「みなし公務員」
そもそも「駐車監視員」とはどういった存在で、どのようなことを業務としているのか。
「駐車監視員というのは、警察のみで行っていた駐車違反の取り締まり業務を、警察と共に行うようになった民間法人の従業員のことです。もう少し具体的にその業務を説明しますと、割り当てられたエリアを徒歩、自転車、自動車のいずれかで巡回し、確認事務を行います。確認事務とは、“放置車両”を見つけたら、黄色い駐禁ステッカーである確認標章を取り付けること。そして放置車両とは、“運転者が車両を離れて、直ちに運転できない状態”の違法駐車車両のことをいいます。確認事務以外に駐車監視員が駐車違反に関してできるのは、『駐車違反です。移動してください』と声かけをすることだけで、違反者本人に対し違反切符を切るなどはできません」(今井氏)
駐車監視員が導入された背景には、警察の業務効率化があったそうだ。
「駐車監視員が登場したのは、2006年6月1日です。駐車取り締まりを民間委託し、“限られた警察力を重要犯罪の捜査に振り向ける”との名目で新しい制度が生まれました。[昌谷1] ちなみに駐車監視員は、業務中は公務員として扱われる『みなし公務員』という存在であり、彼らへの暴行や脅迫は公務執行妨害にあたります」(同)
トランク内に人がいた場合、確認標章は貼れるのか
今回のYouTuberは、「車内に人がいた場合は確認標章が貼れない」という主張を軸に動画を企画したようだが、この判断は正当性のあるものなのだろうか。
「どちらに正当性があるかですが、現在動画が観られない状態で確認できていないので、明確には言及できません。ただ、『駐車監視員は車内に人がいた場合は確認標章が貼れない』という表現には語弊があることについては、お話しできます。
先ほどご説明したとおり、放置車両というのは“駐車違反の状態であり、かつ運転手が車両を離れて直ちに運転ができない状態”を指す言葉で、駐車監視員が確認事務を行えるのは、この放置車両のみです。そのうえで、“車内に人がいた場合に確認標章が貼れるのか否か”について、結論としては“貼れることもあるし、貼れないこともある”という見解になります。
なぜかというと、車内のトランクに運転手が隠れていたというケースに当てはめて考えると、運転者は車両から離れてはいないものの、直ちに運転できる状態だったとはいえないからです」(同)
動画のように駐車監視員が確認標章を貼った直後に、“残念、実は運転手は車内にいました!”と種明かしをしたところで、その主張に100%正当性があるとはいいがたいというわけだ。
報道によると当該YouTuberは、「トランクを開けたときには確認標章を貼られて写真が撮られた後で、その時点で警察にデータが転送されていた」「今回の確認事務は不当であるにもかかわらず、駐車違反の罰金は免れなかったのはおかしい」といった趣旨の主張をしているようだ。この部分に関しても、今井氏の見解を聞いてみよう。
「先ほども言ったように、その正当性に関しては動画が確認できていないので言及はできません。また、写真が撮られた時点で警察署にデータが転送される、そういう新型の携帯端末が登場しているというのは、私は聞いたことがありませんね。
そして“罰金”という表現は誤りです。罰金とは裁判を経て科される刑罰ですので、前科になります。多くの違反は、反則金(軽い行政罰)を違反者が納付して終わっています。放置駐車違反で確認標章を貼られた場合、違反者が誰であっても、違反車両の持ち主に放置違反金の納付命令がいきます。2006年6月1日に駐車監視員の制度が誕生したとき、放置違反金の制度も同時に誕生したのです。今回のケースも、違反車両の持ち主が責任を問われることになります。
今回の処分に関してYouTuberは不服だということですが、駐車監視員は一度確認標章を貼ったら勝手に取り外す権限がないので、貼られたことに不服がある場合、公安委員会に対し『弁明』の手続きができます。そして公安委員会の採決にも不服がある場合は、裁判所の判断を求めることになります」(同)
ネット上では、今回の動画は駐車監視員を目の敵にしている視聴者から共感を得るために投稿された企画だったのでは、と分析する人も多い。一体なぜ、これほど駐車監視員は敵視されがちなのだろうか。
「迷惑駐車はびしびし取り締まってもらいたいけれども、別に迷惑にならない場所での短時間の駐車を杓子定規に取り締まられたら腹が立つ、というのは自然な心情かもしれません。駐車監視員を目の敵にしている人は、駐車監視員が“違反行為の迷惑度合い”を勘定に入れず、機械的に違反を取り締まっていくことに不満を抱いているのでしょう。ですが、駐車監視員は個々の駐車の“迷惑度合い”には関係なく、放置の状態にあると見たら直ちに取り締まりを始める、それが仕事なのです。駐車監視員を目の敵にするのは筋が違うだろうと私は思います」(同)
駐車監視員は、放置車両と確認できたら直ちに確認事務を行うのが仕事。仮に駐車監視員が「この違法駐車は迷惑性がないから見逃そう」などと勝手に判断したら、それこそ大問題になることだろう。杓子定規に取り締まっていく彼らの仕事スタイルを批判する前に、そもそも駐車違反をしないように心がけてほしいものだ。
(文=A4studio、協力=今井亮一/交通ジャーナリスト)
提供元・Business Journal
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