培養肉、すなわち実験室で栽培された肉は、動物細胞から直接育てることで、動物を飼育し屠殺することなく本物の肉を生産する技術です。
この革新的な方法は、持続可能な食料供給の一環として注目され、世界中の企業が開発に取り組んでいます。
特に、米国内の一部企業はすでに政府の安全認証を取得し、商品化に向けて前進しています。
ただ、培養肉はなんとなく気持ち悪くて嫌だと感じている人もいるでしょう。
またこの新技術は畜産業にとって脅威であり、宗教的な背景からも反発を示している人たちが存在します。
そのため、米国では培養肉を禁止する法律を作る州も登場しており、フロリダ州では「肉はヒトではなく神が作るものである」という理由で、培養肉禁止法が制定されたという。
培養肉が持つ可能性と、それに対する社会的抵抗は、どのようにバランスを取っていくべきなのでしょうか?
培養肉は神の意思に反するのか?
フロリダ州は実験室で栽培された肉の使用を禁止する法律を施行し、全米で初めて培養肉を禁止する州となりました。
この動きは、一部の批評家によって農業ビジネスを支援するための陰謀論を伴う宣伝と見なされています。
共和党のディーン・ブラック州下院議員は「培養肉は人工的に作られたものだが、本物の肉は神によって作られる」と述べ、人工肉に対する根本的な批判を示しました。
一方で、フロリダ州の農業委員は、この措置が「立派な農家とアメリカ農業の誠実さを守るためのもの」と強調しています。
さらに、ロン・デサンティス州知事は、実験室で作られた肉や昆虫の消費を推進しようとする一部の人々に対する批判を展開しました。
この決定は培養肉の将来にとってターニングポイントになる可能性があります。
培養肉はまだ店頭にすら並んでいませんが、他のいくつかの州(アラバマ州、アリゾナ州、テネシー州)もすでに同様の禁止法案の作成が推進されているからです。
また培養肉禁止を主張する人たちは、しばしば「フランケン肉」、「シャーレ」、「化学物質」など感情的な言葉を使います。
ですが実際の培養肉はそのような感情的なフレーズとは全く異なります。
先にも述べたように培養肉は動物細胞を培養することによって生成される動物タンパク質の一種であり、動物を育てて屠殺することなく本物の筋肉細胞を食べることができます。
具体的には、生きた動物から筋細胞を採取し、これを栄養豊富な環境下のバイオリアクターで増殖させます。
この過程で細胞は増え、筋肉組織へと分化して、牛肉や鶏肉、魚肉など、動物肉と同じ生物学的特性を持つ肉が形成されます。
そのため細胞を扱うという点においては醸造所に近い存在と言えるでしょう。
現在、培養肉技術は急速に進化し、今では簡易化されており、適切な設備と知識があれば、さまざまな場所で培養肉の生産が可能です。
例えば、砂漠など過酷な環境でも電力さえ確保できれば培養肉の製造が行えるため、地理的な制約がほとんどありません。
さらに、特定の細胞だけを生産するため、伝統的な畜産や養殖に比べて将来的にはコストが大幅に削減される可能性があります。
(※現在の製造コストは伝統的な畜産業に大きく劣っています)
この革新的な方法は、動物福祉と環境保護にも寄与するため、今後さらに注目されるでしょう。
現在、150社以上の企業が実験室で栽培された肉、いわゆる培養肉の製造に取り組んでいます。
その中でも、Upside と Good Meat の2社は、米国農務省(USDA)から培養鶏肉に関する承認を受け、安全性が確保されています。
そのため培養肉は将来的に従来の畜産業にとって大きな競争相手になる可能性があります。
昨年に同様の培養肉禁止法を議会に提出したフロリダ州のタイラー・シロイス議員は「フロリダにとって農業と牛を保護することは重要であると述べると共に、培養肉は自然と創造主に対する侮辱だ」と述べています。
州知事や議員たちの発言からは、禁止法の背景に科学的な理由ではなく、金銭的利益や宗教的な問題が絡んでいることが窺えます。
参考文献
Florida bans lab-grown meat as other states weigh it
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部