厚生年金と国民年金は互いに関係し合いながら国民の生活を支えている。ただその仕組みはわかりづらく、加入者にとっては時に悩みの種となる。130万円の壁や退職時の年金の扱い、マイナンバーはその一例だ。こうした年金に関わる疑問を解消し、年金制度の仕組みもおさえておこう。
厚生年金と国民年金に関わる疑問
日本では基本的に全国民が年金制度に加入することになっている。その要となっているのはほぼ全ての日本国民に加入義務がある国民年金だ。加えて会社員や公務員は、厚生年金にも加入しなければならない。
しかし加入者の状況が変われば、加入するべき年金も変わる。また制度自体に変更があれば対応せざるを得ない。だがそれらを十分に理解していないと、この時に思いがけないミスをしてしまう。そのミスに関わる問題が以下の3つである。
(1) 配偶者の収入が130万円を超えるとどうなるのか?
(2) 転職予定の元会社員は、次の会社に就職するまで年金に入らず保険料は払わなくていい?
(3) マイナンバーはどう関係する?
国民年金の被保険者は第1号から第3号までの3タイプのいずれかに分類される。第1号被保険者には自営業者や学生、無職の人などが、第2号被保険者には会社員や公務員、第3号被保険者には第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者が該当する。
主に(1)は厚生年金加入者の配偶者である第3号被保険者、(2)は厚生年金加入者である第2号被保険者と第1号被保険者の問題で、加入者の状況が変わるために発生する。(3)は年金加入者全体に関わる、制度自体の変更に伴う疑問だ。
年金制度における配偶者の収入
まず(1)の疑問は、配偶者の収入が第3号被保険者の要件に関わってくるために生じる。第3号被保険者には年間の収入が130万円未満でなければいけない、という要件がある。パート収入などで年収が130万円以上になると、第3号被保険者としてのメリットを享受できなくなってしまう。いわゆる「130万円の壁」だ。
より正確にいえば、健康保険や年金保険などの社会保険の対象となっている人を被保険者といい、その被保険者に生計を維持されている人は被扶養者と呼ばれる。このうち、年収130万未満などの要件を満たす配偶者が国民年金の第3号被保険者とされている
第3号被保険者のメリットは保険料の負担がないことだ。第3号被保険者のまま加入し続けて年金の受給要件を満たせば、本人が保険料を支払うことなく年金を受け取れる。
だが被扶養者は年収が130万円以上になると被扶養者でなくなり、第3号被保険者の資格も失う。被保険者資格を喪失すれば今度は第1号被保険者として国民年金に加入する必要が出てくる。第1号被保険者になると保険料を自分で支払う必要が出てくるため、支出が増えることになる。結果的に、収入が増えたにもかかわらず手元に残るお金が減ってしまうという「逆転現象」という事態も起こりうるのだ。
第3被保険者で年収を意図的に130万円未満に抑えている人は存在するが、原因はこうした社会保険における被扶養者の年収制限にあるのである。
130万円以上の年収がもたらす問題
前述した「逆転現象」は、第3号被保険者から第1号被保険者への種別変更のみ考慮した場合、130万円の超過分が1年分の国民年金保険料を上回らない限り起こる。
例えば月の収入が10万8000円から12万円に増えたとしたら年収は144万円だ。すると130万円を超えるので第3号被保険者の対象からは外れる。年金の保険料を計算に含めれば、実際の年収は144万円から19万6080円を差し引いた124万3920円になる。月収に換算すると10万3660円となり、増加前より低い。
国民年金保険料は2018年度だと毎月1万6340円、1年で19万6080円になる。年収130万円は月収にすれば約10万8333円なので、保険料を付加されると、月収は約12万4673円、年収149万6080円を超える金額でないと、総合的にはマイナスになってしまう。
しかもこれは年金のみ考慮した場合の例で、現実には健康保険などの扶養からも外れるため支出はさらに増える。
さらに130万円の壁は、年金保険料の未納という問題も引き起こす可能性がある。第3号被保険者に認定される扶養範囲の収入を超えた際には、第1号被保険者への種別変更の届け出が義務付けられている。この届け出を市区町村にしないまま一定期間が経過すると当該期間が保険料の未納期間という扱いになり、基本的には後からの納付ができなくなる(30年9月末までは後納制度あり)。
実態として種別が変わったのならその時より保険料を支払わなくてはならず、届け出は年金記録上の処理のために必要だ。だが130万円を超えた事実を見逃してしまうと、保険料未納という事態を招き、それは後々の年金額にも影響してくる。
会社を退職したら厚生年金・国民年金はどうなる?
(2)の疑問は、会社退職後の対応についてだ。現役で働く会社員にとって、年金の存在はあまり身近ではない。厚生年金の手続きの多くは会社側が行っており、自身が保険料を支払っている意識が薄いためだ。そうなると会社を辞めた際、年金のことを考慮しなかったり、手続きの必要はないと考える可能性がある。
だが年金に空白期間はない。原則20歳以上60歳未満で日本に住む人は皆、国民年金への加入が義務付けられている。会社を退職して厚生年金加入者および国民年金第2号被保険者の資格を失った場合は、国民年金の第1号被保険者として年金制度の適用を受けることになる。
たとえ1、2カ月後には新しい会社に勤めるとしても、1日でも企業に勤めない期間があればその間は第1号被保険者という形で国民年金に加入する必要がある。
またこの場合において、配偶者が第3号被保険者だった時は同時に配偶者の手続きも必要になる。つまり夫婦ともに第1号被保険者へと立場が変わり、保険料の負担を求められることになるのだ。
退職者と学生の国民保険料
このように保険料未納の問題は第3号被保険者の収入超過と同じく会社退職時も起こりうる。もちろん、会社退職からしばらくは再就職しない元会社員(元第2号被保険者)も、第1号被保険者期間に国民年金の保険料を納めないと未納扱いになってしまう。なお所得額によっては申し出をすれば保険料が免除される場合もある。
一方、国民年金の加入は20歳からのため、学生もその年齢に達したら被保険者として入らなくてはならない。ただ「学生納付特例制度」を利用すれば、在学中の保険料納付が猶予される。本人の所得が一定額以下で、夜間や通信を含め大学や短大など学校に通う学生なら基本的に適用される。この時家族の所得額については問われない。
いずれにしても20歳になってから60歳になるまでの間は、最低限国民年金には入ることになる。厚生年金の加入者は同時に国民年金加入者でもある。しかし厚生年金に入っているかどうかで本人または配偶者の国民年金における種別は変わってしまう。その認識が欠けていると、将来受け取る年金額に影響が出たり、後になって未納期間の保険料の一括支払いを求められることにもなる。
マイナンバーが年金制度でどう使われるか
(3)はそのままマイナンバーが年金にどう関わってくるのかという疑問だ。マイナンバー(個人番号)とは国民一人一人に割り当てられた12桁の番号で、年金や税などの行政手続きを簡略化するために導入された。すでに2015年10月以降より、住民票をもつ人々に各自通知されている。基本的に事務手続きの際に用いる番号である。
年金の手続きには基礎年金番号が利用されてきたが、2018年3月5日以降はマイナンバーを使用することになった。国民年金や厚生年金問わず、これまで基礎年金番号を記入していた書類には原則マイナンバーを記入することになった。例えば年金の資格取得届や資格喪失届、保険料の免除・猶予申請書、年金請求書などだ。
書類上にあった「基礎年金番号」の欄が「個人番号または基礎年金番号」欄に変更され、そこにマイナンバーを記入する。加えてマイナンバーを用いた手続きの際は、そのマイナンバーを保有する本人であることを示す必要がある。第1号被保険者なら市区町村の窓口など、第2号被保険者の厚生年金加入者なら事業主に、本人確認書類を用いてマイナンバー保有者だと示す。第3号被保険者なら事業主か事業主から本人確認作業を任された配偶者に、自身のマイナンバーであることを証明しなければならない。
マイナンバー導入のメリット
マイナンバーの導入による具体的なメリットは主に書類手続きの省略だ。マイナンバーと基礎年金番号が関連付けられていれば、その被保険者は住所変更届、氏名変更届、死亡届といった一部の書類の提出を省略できる。引っ越して住所が変わった時や結婚して氏名が変わった時など、書類を提出する手間がなくなるのである。そうした手続きの省略は、今後も幅を広げながら順次行われていく見通しだ。
ちなみにマイナンバーと基礎年金番号の関連付けは、基本的に年金の被保険者本人の申し出や日本年金機構とJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)の連携によってなされる。
被保険者や被保険者が属する会社の事業主は、折に触れて年金関係の書類を日本年金機構に提出する。その書類に記入されているマイナンバーを取得し、日本年金機構が把握している基礎年金番号と関連付ける。
他方、地方公共団体が運営するJ-LISはマイナンバー関係のシステム全般を担当する組織で、日本年金機構は当団体と連携してマイナンバーの提供を受ける。氏名や住所、生年月日などの個人情報や住民票コードをもとに、それに対応するマイナンバーの情報を受け取る、といった形だ。
届け出の省略は、J-LISが運営する住民基本台帳ネットワークシステムから氏名や住所などの最新情報について、マイナンバーを通じて取得し、日本年金機構で更新することで可能になる。
ただ、基礎年金番号自体が不要になったかといえばそうではない。マイナンバーの提供が難しい場合は、引き続き基礎年金番号を使用できる。
また海外に引っ越した時や国民年金保険料の口座振替などの手続きで基礎年金番号を利用する場合もある。そのため基礎年金番号が記載されている年金手帳などはしっかり保管しておく必要がある。
文・MONEY TIMES 編集部
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