黒字化が後ろに倒れる可能性

 楽天モバイルは黒字化目前といえる状態なのか。百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏はいう。

「先に結論から言えば、楽天モバイルが単月黒字化に向かっていること自体は確かです。ただ前回の決算と違い、今回の決算では別の課題が浮上してきました。決算データからは営業利益の黒字化は楽天Gが期待するよりも後ろに倒れる可能性があるように読み取れます」

 難しいという見方も強かった楽天モバイルの黒字化だが、達成が現実的になってきた要因は何であると考えられるのか。

「楽天モバイルのMNO回線契約数は3月末で648万回線、直近の5月13日時点では680万回線と公約通りに伸びています。もともと楽天モバイルはギガ数をたくさん利用するヘビーユーザーからは圧倒的な支持を受けています。それに加えて今年の中盤からはプラチナバンドの利用が開始されますから、一般ユーザーの楽天への乗り換えも期待できます。ですからこのペースであれば年末までに850万回線への到達が可能なペースで走っています。

 一方で、今回の決算からは新たな課題が浮き彫りになりました。過去1年間を通じて会員一人あたりの月間収入であるARPUが2000円近辺から動かないのです。楽天モバイルの『Rakuten最強プラン』では20GBまでのユーザーが月1880円で、この層が日本のスマホユーザーのボリュームゾーンです。月額2880円の20GB越えユーザーが増えないとARPUは簡単には上がらない構造なのですが、この先、この構造が変わらない可能性が強まってきました。

 その場合、楽天モバイルが試算する契約回線数800万件での単月営業黒字化は前提が狂います。単純計算で1200万ユーザーまで黒字化のゴールポストは後ろにずらされることになってしまいます」(同)

 では楽天G全体としては、良い方向に向かっているのか、その逆なのか。

「このARPUの問題を考えると一見、楽天Gの経営は苦しくなってきたように見えてしまうのですが、実は同社がそれを乗り越える別の兆候が見えてきました。ひとつはフィンテック部門の営業利益が前年同期比でほぼ1.5倍に増えていることです。利益額では約130億円の上乗せです。この大幅な利益増が単独理由ではなく、楽天ペイの黒字化、楽天カードの利用増加、そして新NISAなどで楽天証券が好調だという複数要因にけん引されています。最近、楽天Gは金融部門の統合を発表していますが、この金融部門の利益だけで逆に、楽天Gの経営危機のタイミングも後ろにずれてきているのです。

 もうひとつ重要なのは社債の償還リスクに関して、外債を発行できたことで2025年までの資金繰り問題が概ね解消したことです。この前提変化は大きいです。これまで年内の黒字化が達成できなければ25年には資金繰りがアウトになるのではと危惧されていたのですが、それが来年の黒字化まで期限の猶予が長くなったのです。

 加えて楽天モバイルのARPUを上げる施策を考えていると三木谷会長が語っていますが、これがまだ発動されていない。ここでARPUが動けば楽天モバイルの黒字化時期は早まる余地があります。

 このように今回の楽天グループの決算は悪いニュースといいニュースが入り混じった決算発表だったのですが、全体的に眺めるとプラスマイナスで結果はプラスだという内容だったと考えています」

(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

提供元・Business Journal

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