湘南の攻撃は改善傾向に

J2リーグ降格圏へ転落した湘南にとって唯一の救いは、攻撃に改善が見られたことだ。

[3-1-4-2](自陣撤退時[5-3-2])の基本布陣でこの試合に臨んだ同クラブは、3バックの左を務めた大野と左ウイングバック畑、及びMF平岡大陽(インサイドハーフ)の連係が冴え渡る。前半11分に大野が最終ラインでボールを保持。ここでは基本布陣[4-4-2]の柏サイドハーフとサイドバックの中点に畑が立っている。これと同時に平岡が柏の最終ライン背後を狙ったため、柏DF関根大輝(右サイドバック)が畑へ寄せづらい状況に。これにより畑が関根とサヴィオ(柏の右サイドハーフ)の間でボールを受け、攻撃の起点を担えた。

前半12分にも大野が最終ラインでボールを受け、タッチライン際の畑へのパスと見せかけ平岡へ浮き球を送る。畑に寄せようとした柏の右サイドバック関根の背後を、平岡が突く形となった。

大野、畑、平岡の連係が深まり始めたのは、最終スコア2-1で勝利した第12節サガン鳥栖戦だ。1-1の同点で迎えた後半1分、このシーンでも大野が自陣後方タッチライン際の畑へパスを出すと見せかけ、その前方の平岡へ浮き球を送る。これをコントロールした平岡からボールを引き取ったのは、タッチライン際から内側へ走った畑。その後畑から池田にパスが繋がると、池田からボールを受け取ったMF阿部浩之がペナルティアーク後方から右足でシュートを放つ。このミドルシュートがゴールマウスに吸い込まれ、湘南が勝ち越している。

自陣後方タッチライン際へ降りたウイングバック(サイドバック)にパスを出しては、相手サイドハーフのプレスをもろに浴びるという現象が昨年から続いていた湘南だが、直近のリーグ戦で新たな攻撃パターンを構築できている。鳥栖戦や柏戦では、タッチライン際の畑を囮(おとり)としてうまく使えていた。今後もこうした攻撃を繰り出すべきだろう。

髙橋直也 写真:Getty Images

未だに改善されないクロス対応

今季J1リーグで、相手のセットプレー(※)やクロスボールから失点を重ねている湘南。柏戦では自陣ペナルティエリアに立っていた大野とDF髙橋直也が、自身の死角(背後)を細谷に突かれている。柏MF島村のクロスがここへ渡ったことで、湘南は決勝ゴールを奪われた。

ゴール前の守備者が、マークすべき相手選手とクロスボールを同一視野に収めるようなポジショニングや体の向きを整えられず、ラストパスを受ける相手選手に背後をとられてはシュートを放たれる。湘南はこの現象から何度も失点を喫しており、これこそ同クラブが改善すべき悪癖だ。

この悪しき現象が顕著に表れたのが、最終スコア1-3で敗れた第11節の鹿島アントラーズ戦。この試合の前半12分、自陣ペナルティエリアに立っていた湘南DF髙橋が、自身の背後を相手FW鈴木優磨にとられている。この場面でクロスボールは鹿島MF仲間隼斗に向かったが、鈴木に渡っていれば湘南は大ピンチを迎えていた。

後半5分には鹿島のコーナーキックからの2次攻撃で、ペナルティエリア内の湘南MF池田がラストパスに気を取られたうえ鈴木に背後を突かれる。これにより鈴木のヘディングシュートを浴び、湘南は先制点を奪われた。

湘南は後半17分にも鹿島にセットプレー(フリーキック)を与え、ここでは湘南DF大岩一貴と畑のどちらが鈴木のマークを担うのかが曖昧に。最終的に大岩が自身の背後を鈴木に突かれ、同選手に追加点を奪われてしまった。

セットプレーやクロスボールからのピンチ・失点がこれほど続いている以上、今の守備原則を根本的に見直す必要があるだろう。ゴール前の守備者が、マークすべき相手選手とクロスボールを同一視野に収めるようなポジショニングを整えているFC町田ゼルビアは、今季J1リーグ初挑戦でありながら9勝2分3敗で現在2位。総失点数も全20チーム中2番目に少ない「11」と好成績を収めている。近年J1残留争いに巻き込まれ続けている湘南の奮起に期待したい。

(※)コーナーキックやフリーキックなど、規定の位置にボールをセットしてプレーを再開すること