宇宙で最も密度の高い天体、ブラックホール。

その強烈な重力で近づくものをすべて吸い込んでしまい、光すらも脱出することを許しません。

そんな驚異の天体を前に、宇宙ファンが長らく好奇心を抱いてきた問題があります。

それは「もしブラックホールに飛び込むと、どうなるのか?ということです。

アメリカ航空宇宙局(NASA)のゴダード宇宙飛行センターは最近、この好奇心に応えるべく、ブラックホールに突入する瞬間を一人称視点で再現したシミュレーション映像を作成し、新たに公開しました。

さあ、ブラックホールに飛び込む心の準備はできたでしょうか?

イベント・ホライズンの向こう側へ

ブラックホールは一般に、大きな質量を持つ恒星が寿命を終えたときに自らの重力に耐えられずに崩壊し、極限まで圧縮されることで誕生します。

ブラックホールには大きく分けて3つのタイプがあり、太陽質量の約10倍のものが「恒星質量ブラックホール」、100〜1万倍のものが「中間質量ブラックホール」、そして100万〜100億倍のものが「超大質量ブラックホール」です。

超大質量ブラックホールまで来ると、1つの大きな恒星が崩壊したくらいでは形成されません。

これまでの研究では、2つのブラックホール同士がぶつかって合体するか、周囲のガスをどんどん吸い込んで大きくなっていくことで形成されると考えられています。

ブラックホールの想像図
ブラックホールの想像図 / Credit: ja.wikipedia

そして新たに誕生したブラックホールは近くにある塵やガスなどの物質を強烈な重力で吸い込んでいきます。

ブラックホールに吸い込まれてしまうと光ですら脱出することはできません。

吸い込まれるか、吸い込まれないか。このブラックホールの境界線を「イベント・ホライズン(事象の地平面)」と呼びます。

ここを超えると光さえ脱出できないので、こちらの世界からイベント・ホライズンの向こう側をのぞき見ることはできません。

その答えが知りたいなら、ブラックホールに飛び込んでみるしかないのです。

ブラックホールの図解。イベント・ホライズンを超えると中心部に「特異点(シンギュラリティ)」がある
ブラックホールの図解。イベント・ホライズンを超えると中心部に「特異点(シンギュラリティ)」がある / Credit: researchgate, uploaded by Jose Alfredo Collazos Rozo

そこで研究チームは、NASAが所有するスーパーコンピューター「Discover」を用いて、ブラックホールのど真ん中に飛び込む際のシミュレーションを行いました。

この計算を一般的なラップトップで行うと10年以上かかりますが、Discoverはわずか5日間で情報処理を終えたとのことです。

チームはここで2つの異なるシナリオをシミュレーションしました。

1つは「イベント・ホライズンを超えてブラックホールの中に突入する」もので、もう1つは「ブラックホールの周りを周回して帰還する」ものです。

また今回のシミュレーションには太陽の約430万倍の質量を持つ超大質量ブラックホールを選んでいます。

これは私たちが暮らす天の川銀河の中心にある「いて座A*(いてざエー・スター)」と同じサイズです。

では、いざイベント・ホライズンの向こう側へ!