上場企業の2024年3月期決算は、歴史的な円安を追い風に過去最高益を更新するケースが相次いでいる。値上げの浸透も収益を押し上げ、純利益の合計は3年連続で過去最高に達する見通し。ただ、円安による輸入品の価格上昇が物価高を長引かせ、個人消費は低迷が続く。このまま円安が続けば、25年3月期は一転して業績の足かせになりかねないと危惧する経営者が少なくない。

◇純利益、微減予想
 円安効果で訪日外国人客の利用が急回復し、24年3月期に過去最高益を記録したANAホールディングス。今期は2桁減益を予想する。円安が日本人に海外旅行をためらわせる負の効果が懸念され、芝田浩二社長は「心地良いのは1ドル=125円程度だ」と、約34年ぶりの円安水準が今後是正されることに期待を寄せる。

 日本企業で史上初めて営業利益が5兆円を超えたトヨタ自動車は、値上げや高級車の販売増などで2兆円、円安で6850億円の押し上げ効果に恵まれた。もっとも、佐藤恒治社長が「足場固め」の年と位置付ける今期は人材育成と技術開発に2兆円を投じるため、2割減の4兆3000億円にとどまる見通し。ホンダや日産自動車など、最高益に沸いた他の自動車大手も、相次いで減益予想を公表した。

 SMBC日興証券の集計によると、東証株価指数(TOPIX)を構成する1421社のうち、13日までに決算発表を終えた1014社の純利益の合計は前期比17.5%増。これが25年3月期は0.6%減と頭打ちになると見込まれる。

◇物価高リスク

 大手精密機械メーカーのニコンは今期、増収減益を見込む。海外事業が売上高の8割を占め、円安は業績にプラスに働くはずだが、徳成旨亮社長は「国内のカメラ販売に悪影響がないか注意して見ていく」と警戒する。製品価格をドルで決めているため、円換算した国内価格が円安だと高くなるからだ。

 物価の上昇ペースに賃上げが追い付かず、実質賃金は3月まで24カ月連続で前年同月比マイナスを記録。リーマン・ショック前後を上回り、過去最長を更新した。消費支出も前年割れが続き、小売業界には円安や消費低迷の逆風が吹き始めている。

 大手家電量販店ヤマダホールディングスは、前期の連結純利益が24.4%減。今期は増収増益を見込むものの、長野毅執行役員は「円安とエネルギー高騰が相まって消費者の購買が減る」と表情を曇らせた。

 中東情勢の緊迫化も懸念材料の一つだ。いったん落ち着きを見せた原油価格が再び上昇傾向を強めれば、家計や企業収益を圧迫する。さらに、中国経済の減速が鉄鋼、化学メーカーなどの業績に影を落とす。2期連続の減益予想を発表した日本製鉄の今井正社長は、「厳しい環境を前提にどう取り組むかが最大の課題だ」と巻き返しを誓った。

◇24年3月期決算に関する経営者の発言
▽ANAホールディングスの芝田浩二社長
 円安は海外に向かう国際線の利用客に負担。心地良いのは1ドル= 125円程度だ
▽トヨタ自動車の佐藤恒治社長
 持続的な成長を実現するための足場固めをしっかりとやっていく
▽ニコンの徳成旨亮社長
 円安で国内のカメラ販売に悪影響がないか注意して見ていく
▽ヤマダホールディングスの長野毅執行役員
 円安とエネルギー価格や物価の高騰が相まって、消費者の購買が減る
▽日本製鉄の今井正社長
 厳しい環境を前提にどう取り組むかが最大の経営課題だ
(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2024/05/14-21:02)

提供元・Business Journal

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