小説を読むことは言語能力と他者への理解力を高める

1つ目のメタ分析の結果、フィクション作品(小説)を読むことは確かに認知スキル全体に対して、有意にプラス効果を与えていることが示されました。

特にどの認知スキルが有意に高まったかを調べたところ、最も効果が顕著だったのは他者の考えや感情を理解する「共感能力」でした。

この効果はフィクション作品を読んだ被験者で最大となっていましたが、ノンフィクション作品を読んだグループでも、フィクション映像を見た被験者や何もしなかった被験者に比べ高かったといいます。

この結果は小説が他者の気持ちを学ぶのに非常に高い効果を持っていることを示唆しています。ノンフィクション作品の場合は、登場人物の気持ちを描くより、事実に基づいた情報を記すことが多いため、効果がフィクション作品より下がっている可能性があります。

それから2つ目のメタ分析でも、日常的にフィクション作品を読む頻度が多い被験者ほど、認知機能も高くなるという一貫した傾向が明らかになりました。

その効果は特に、推論・抽象的思考・問題解決・言語能力などで顕著になっていました。

1つ目のメタ分析と同様に、共感能力の向上も見られていますが、その効果はこれら4つほどではありませんでした。

小説が1番だが、そもそも読書自体が有効かも
小説が1番だが、そもそも読書自体が有効かも / Credit: canva

以上の結果を受けて、研究主任のレナ・ヴィマー(Lena Wimmer)氏は「小説のようなフィクション作品をたくさん読む人は、それをほとんど、あるいは全く読まない人に比べて、認知機能が高まることが明らかになりました」と述べています。

これは空想上の物語を読む行為が独特の方法で脳を刺激し、映像を含む他の形態のメディアからは得られない認知効果をもたらす可能性があることを示唆しています。

フィクション小説は、物語上の人物の感情に寄り添ったり、ある人物の視点から相手の気持ちを考えたりと、人の内面を詳細に描くことが多くなります。

これが無意識に他者への理解を深め、多様な視点から物事を考えるトレーニングになっているのかもしれません。

一方で、映像作品は人物の仕草や表情、言動などから考えを読み取らなければなりません。そのため映像作品は認知スキルを鍛えるというよりも、鍛えた認知スキルが試される媒体と言えるのでしょう。

もともと他者視点の考えを理解する認知能力がないと、映像作品を見ても登場人物が何を考えどう感じているのかさっぱり読み取れないということにもなりかねません。

ヴィマー氏らは次のステップとして、フィクション作品を読むことがいかにして認知機能の向上につながるのか、より詳しい因果関係を明らかにしたいと述べています。

小説を読むことには、自分で登場人物の姿や風景を自由に想像したり、あるいは感情移入する人物を変えることで印象が変わったりと、映像とは違った独自の楽しみがあります。

映像は気軽に楽しめる娯楽ですが、たまには読書の時間を作ることが認知能力を鍛えるために重要かもしれません。

参考文献

People who read a lot of fiction tend to have better cognitive skills, study finds

Study reveals the cognitive superpowers of reading fiction: more than just words

元論文

Cognitive effects and correlates of reading fiction: Two preregistered multilevel meta-analyses.

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。