鳥が備えている「呼吸器システム」の凄さとは?
最も重要なのは、鳥たちが酸素を効率よく取り込める「呼吸器システム」を備えていることです。
私たちヒトを含む哺乳類とマダラハゲワシなどの鳥類では、呼吸の仕組みがまったく異なります。
哺乳類の呼吸では、袋状の肺にそのまま空気を送り込んだり、吐き出したりする構造をしており、「吸う」と「吐く」を同じ経路で行っています。
一方で、鳥類では「気囊(きのう)」という特殊な袋を使うことで、肺の中に常に一方向の空気の流れを作り出すことができるのです。
下の図を見てみましょう。
2つある丸い器官が気囊で、頭に近い方が「前気囊」、尾に近い方が「後気囊」で、その間をつなぐ枝分かれした四角い器官が「肺」です。
まず息を吸うとき、鼻や口から入った新鮮な空気は気管を通って「後気囊」に送られます。
次に息を吐くとき、後気囊の中にある空気が肺に送り出されて、血管に酸素をわたしながら二酸化炭素を受け取ります。
さらに息を吸うと、二酸化炭素を多く含んだ空気は、後気囊から新しくやってきた空気に押し出されて、前気囊に入ります。
そして再び息を吐くとき、前気囊に溜まっていた二酸化炭素を多く含む空気が気管を通って、鼻や口から外へ出されます。
この一方通行の循環システムにより、鳥たちは「使用済みの空気」と「新鮮な空気」を混ぜることなく、最大限に酸素を取り込むことができるのです。
これが哺乳類だと、同じ通路上で使用済みの空気と新鮮な空気を行き来させているため、どうしても酸素を取り込む効率が下がってしまいます。
加えて、鳥類は血液中のヘモグロビンが酸素と親和性が高くなるように進化しており、低酸素環境でも酸素を効率的に取り込むことができます。
こうした特別な呼吸器システムのおかげで、酸素の薄い高度を飛んでいても失神することはないのです。
またマダラハゲワシの他にも、数千メートルを超える高い場所を飛べる鳥はいます。
例えば、カモ科マガン属の「インドガン(学名:Anser indicus)」は、標高8000メートル以上に達するヒマラヤ山脈を飛び越えることが確認されています。
しかもマダラハゲワシとは違って、追い風や上昇気流の助けはほとんど借りず、自力の羽ばたきでヒマラヤ山脈を超えることができるのです。
これを踏まえると、自力で飛べる高さとしてインドガンが世界最高かもしれません。
とはいえ、偶発的な出来事だったとしても、マダラハゲワシが到達した高度1万1300メートルを超える鳥はいまだ現れていないようです。
100年謎だった「鳥類の肺は空気の流れが一方通行になっている」仕組みを解明 空気が薄い高所を飛べる理由
参考文献
What Is The Highest A Bird Can Fly?
The World’s Highest Flying Bird
Rüppell’s Vulture
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。