牙は口先の左右から生え出ていた!

チームは2014年に発見された化石からこの新事実にたどり着きました。

化石にはアゴと牙がつながった状態で残っており、そこから一対の牙が口先の外側の左右に横向きになって生え出ていたことが確認できたのです。

またこれまでに回収されたO. ラストロススの様々な化石断片をCTスキャンで分析し、牙がどこにどのような形で生え出ていたかを検証した結果、どの個体でも口先の左右に生えていたことが確かめられました。

加えて、オスとメスが同じように牙を持っていたことも判明しています。

牙が口先に生え出ている化石
牙が口先に生え出ている化石 / Credit: PCOM – ‘SABER’ NO MORE: A GIANT PREHISTORIC SALMON HAD SPIKE TEETH(2024)

この事実からチームは、O. ラストロススの英名を「セイバートゥース・サーモン」ではなく、トゲのような歯が生えていることを意味する「スパイクトゥース・サーモン(spike-toothed salmon)」に改名するべきだと述べました。

口先の牙が何に使われていたのかは定かでありませんが、チームはライバル同士の争いや捕食者の撃退に使われていただろうと考えています。

また他に、巣穴を掘るためにも使われていた可能性もあると指摘しました。

研究主任のケリン・クライソン(Kerin Claeson)氏は「ライバルや捕食者と争うのに役立ったこの大きな牙は、この巨人たちがおそらく穏やかな生き物ではなかったことを指し示している」と話しています。

O. ラストロススの復元イメージ(口先の左右に一対の牙)
O. ラストロススの復元イメージ(口先の左右に一対の牙) / Credit: PCOM – ‘SABER’ NO MORE: A GIANT PREHISTORIC SALMON HAD SPIKE TEETH(2024)

一方で、この牙が獲物の捕食に使われた可能性はありません。

というのも、O. ラストロススは現代のキングサーモンのように甲殻類やイカ、小魚を食べるのではなく、ヒゲクジラ類のように濾過摂食によってプランクトンを食べていたことがわかっているからです。

なのでイカやカニを狙う獰猛な捕食者ではありませんでしたが、ライバルや天敵とは勇敢に戦ったことが伺えます。

余談ですが、鮭の赤い身はエビやカニに含まれるアスタキサンチンという色素によるものであることがわかっています。

そのため、O. ラストロススがこれらの甲殻類を食べなかったのであれば、彼らの身はいわゆるサーモンピンクではなかったのかもしれません。

チームは現在、牙の化石の摩耗パターンを分析して、それらが具体的にどんな使われ方をしたかを調べているところです。

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参考文献

‘SABER’ NO MORE: A GIANT PREHISTORIC SALMON HAD SPIKE TEETH

These giant, prehistoric salmon had tusk-like teeth

Giant prehistoric salmon had tusk-like teeth, just like a warthog’s

元論文

From sabers to spikes: A newfangled reconstruction of the ancient, giant, sexually dimorphic Pacific salmon, †Oncorhynchus rastrosus (SALMONINAE: SALMONINI)

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。