裁判では「要件定義」が重視

 過去には大規模システムの開発中止をめぐって発注元企業とベンダが訴訟に発展するケースもある。

 野村ホールディングス(HD)と証券子会社・野村證券は10年、社内業務にパッケージソフトを導入するシステム開発業務を日本IBMに委託したが、作業が大幅に遅延したことから野村は開発を中止すると判断し、13年にIBMに契約解除を伝達。そして同年には野村がIBMを相手取り損害賠償を求めて提訴した一方、IBMも野村に未払い分の報酬が存在するとして約5億6000万円を請求する訴訟を起こし、控訴審判決で野村は約1億1000万円の支払いが命じられた。

 テルモは物流管理システム刷新プロジェクトが中止となり、14年に委託先ベンダのアクセンチュアを相手取り38億円の損害賠償を求めて提訴。また、12年に基幹系システムの全面刷新を中止した特許庁は、開発委託先の東芝ソリューション(現・東芝デジタルソリューションズ)とアクセンチュアから開発費と利子あわせて約56億円の返納金の支払いを受けることで合意している。

 もし仮にグリコがデロイトに対して損害賠償を求めて提訴した場合、どのような事実認定がされると、デロイトに対し損賠賠償命令が出されることになるのか。山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士はいう。

「新規のシステムを入れ替えたら顧客サービスが停止した、物流システムがダウンしたなどといったニュースをよく聞きます。こういったシステム開発にトラブルが発生する原因について過去の裁判例をみると、

・契約後、最初に行う『要件定義(※)』がしっかりとされていない ・システム開発を依頼する当事者は大手だが、その背後に、二次請け、三次請け、四次請けなどがあり、これらの管理がしっかりできていない ・システム開発を依頼するほうが、途中で『やっぱりこれはやらない』『これを追加して』などと、要求や仕様を変更することによる混乱

などが挙げられています。

※要件定義:一般的に、システム開発の依頼者が何を必要としているのかをまとめて整理し、具体的な進め方を決めること

 要するに、契約時には何を完成させるか決まっていない、開発中にもっと良いものをといった欲が出るのが大きな原因です。裁判では、『要件定義』が重視され、この『要件定義』通りにシステムが設計されていなければ開発業者に帰責性があると判断されます。もっとも、上記の通り、途中で要求や仕様が変更されることがあるわけで、裁判では『最終的に何を開発しようとしていたのか』『そのとおりに開発されたのか』が争われます。このため、要求や仕様の変更について一つひとつ『変更が合意されたのかどうか』『どう変更されたのか』を議事録などで明確にしておくことが大切です。

 今回の場合も『要件定義』書や各種の議事録を振り返り、グリコ側の要求通りの開発が行われたのかどうか、しかもしっかりと記録として残っている要求であったのかどうかが議論されることでしょう。

 なお、グリコ側が訴訟を提起したとして、その主張が認められた場合の損害額ですが、このようなビッグプロジェクトの場合、たいていの場合、

・こうなったらこうする
・こういう場合はこうする

といったことが事細かに決められております。おそらくシステムに障害が発生した場合の『損害額』についても予め、

・こういうことが起こった場合に、こういうことが認められる場合は、損害額は●●万円とする

と決められていることでしょう。具体的金額はケースバイケースですが、『損害額はシステム開発費用の総額を超えない』『逸失利益に関する損害は、●●%までとする』などと定められることがあります」

(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)

提供元・Business Journal

【関連記事】
初心者が投資を始めるなら、何がおすすめ?
地元住民も疑問…西八王子、本当に住みやすい街1位の謎 家賃も葛飾区と同程度
有名百貨店・デパートどこの株主優待がおすすめ?
現役東大生に聞いた「受験直前の過ごし方」…勉強法、体調管理、メンタル管理
積立NISAで月1万円を投資した場合の利益はいくらになる?