「車の運転」と聞くと、まず思い浮かぶのはレジャーや買い物といったプライベートな用途かもしれません。しかし業種や職種によっては、業務のなかで運転する機会もあると思われます。
会社の車を運転することに対して、「絶対にぶつけられない」と独特な緊張感を覚える人もいるでしょう。今回は社用車を日常的に運転している方々に、「社用車をめぐるトラブル」について話を聞きました。
社用車の事故、隠してもムダ?
「ぶつけたら厄介なことになる」というイメージのある社用車ですが、実際に事故が生じたときの対応は会社によってさまざまです。とくに気になるのは、「事故に対する責任の所在」かもしれません。
「ある日いつものように営業に出ようと駐車場に行くと、自分が使っている車両の運転席ドアがヘコんでいたんです。一瞬ギョッとしましたが、自分は絶対にぶつけていませんし、ともかく上司に報告しました。
前日にそこに戻したときにはヘコミはなかったはずなので、隣の社用車にぶつけられた可能性を考えたんですが、当の車にはそれらしいキズがありません。そのまま駐車場の車をチェックしていくと、リアバンパーの左側に擦った跡のある社用車が。
上司がその車両を使っていた従業員に聞くと、すんなりやったことを認めたそうです。ぶつけてパニックになり車を移動させ、そのままショックで言い出せないままでいたと。気持ちはわかりますが、故意でもない事故の修理代を従業員に負担させるような会社でもありませんし、サクッと報告した方が話が早いのにな、と思ってしまいますね」(30代男性)
社用車で事故を起こしてしまった場合、運転していた従業員が負う可能性のある責任としては、「民事上の賠償責任」のほか、交通違反があった際には「違反点数などの行政上の責任」、また人を死傷させたケースでは「懲役や罰金など刑事上の責任」が考えられます。
上のエピソードは会社の敷地内における物損事故であることから、基本的には会社側と従業員との間で修理費用の負担分について取り決めていくものと考えられます。会社が従業員に修理費用を請求するケースもありますが、ここでは業務中の事故であったこともあり、会社側が全面的に負担することになったようです。
なお、労働基準法第16条には「賠償予定の禁止」という項目があり、労働契約の不履行に対する違約金や損害賠償額をあらかじめ定めた契約を禁じています。つまり、「事故を起こしたら従業員自身が全額を負担する」といった内容の社内規定などは認められないと考えられるでしょう。
ここから、事故が起きた際の損害については企業側が負担するケースも多いようです。ただし、この条項は従業員に対する損害賠償請求そのものを禁じるものではありませんので、状況によっては従業員が業務中の事故についての賠償責任を負うケースも考えられます。
一体誰に狙われているのか…
社用車を抱える企業のなかには、社用車による通勤を認めているところもあります。もちろん社用車の私的利用は厳禁ですが、それでもプライベートと完全に切り離すことができず、トラブルに発展するケースもあるようです。
「うちの会社では業務の都合上、社用車での通勤が許可されており、また管理のしやすさから基本的には同じ従業員がいつも同じ車両を使うことが慣例になっています。
ですがもちろん、点検や車検の際には少し入れ替えが発生するんですね。まぁ別に、普段はそれで何も問題はないのですが……。
あるとき、1台の社用車を車検に出して、まもなく整備工場から連絡が入ったんです。『あれ、もう終わったのかな』と思ったのですが、何やら様子がおかしい感じがします。なんでも、車体の下回りにおかしなものが取りつけられていると。
当然、会社の方では何も変なものはつけていませんから、取り外してしまうようお願いしたんですね。するとどうやら、GPSだったみたいで……。
その車両を普段使っている従業員に聞くと、目を丸くしながら『覚えがありません』と。浮気を疑った奥さんがやったのでは、とも思ったのですが、その従業員は独身なんですよね。
結局真相はナゾのまま。警察に相談しようかという話にもなりましたが、スパイが入るような大企業でもありませんし、万が一犯人が身内にいても面倒だという上の判断で、なかったものとして扱われました」(50代男性)
出所不明のGPSが取りつけられているというのは、社用車でなくても不気味なものです。その従業員をターゲットにしたものなのか、企業をターゲットにしたものなのか……。面倒を避けずに、警察に相談するのがベストのようにも思えますが、会社なりの事情もあったのでしょう。
社用車を完全に私的利用、事故の責任は?
社用車は日々当たり前のように業務に用いられていますが、もちろん事故の可能性はゼロではありません。業務中の事故であれば、多くの場合会社側も責任を負うものの、業務外で生じた事故については話がこじれるケースもあるようです。
「社用車で追突事故を起こした同僚がいます。前方不注意で、信号待ちの車に突っ込んだみたいです。厄介だったのは、それが業務時間外の事故で、しかも実際に運転していたのは同僚の友達だったことです。
営業職だったので社用車での直帰自体は認められていたんですけど、同僚はそれをいいことに社用車をプライベートにも使っていたみたいなんですよね。
同僚は会社に報告する際、友達に運転させていたことは黙っていたようですが、そもそも警察に連絡した時点でその友達が運転したことになっていますから、バレないわけがありません。
結局会社が加入していた任意保険は使えず、相手の車と社用車の修理費は一旦会社側が立て替えることに。同僚はかなりの減給処分を受けて、まもなく退職していきました。修理費も会社から請求されていたはずですが、きちんと回収できたのかどうかはわかりません」(30代女性)
一般に、社用車で従業員が事故を起こした場合には、その車両を所有する企業も「使用者責任」や「運行供用者責任」を負い、その従業員とともに事故によって生じた損害を賠償しなければいけません。
これらの責任は、業務中における事故はもちろん、業務外の事故においても発生しうるものとされています。社用車による通勤が認められている場合などは、「従業員が社用車で通勤すること」によって企業も利益を得ていることになるので、事故の際の賠償責任も負うというわけです。
さらに、従業員が会社に黙って社用車を使っていた場合にも、それが職務の範囲と見なされたり、あるいは会社の運行管理体制が十分ではないと見なされたりすれば、会社の運行供用者責任が問われる可能性もあります。
とはいえ上のケースにおいては、プライベートであるばかりか車両を第三者に貸してしまっており、会社側の責任が生じうるかはかなり微妙なところだと考えられます。
このように、社用車をめぐるトラブルは法律のほか会社のルールや管理体制など多くの要素が絡み合い、話が複雑になるケースが少なくありません。個々の従業員のコンプライアンス意識はもちろんですが、会社としてもリスクマネジメントに向けた対策が求められるのでしょう。
文・MOBY編集部/提供元・MOBY
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