現代の人間の活動は、多くが自然を破壊し悪影響を与える場合が多くなっています。
しかし、人間も自然の一部です。大昔の人間の活動が現在の動物たちの助けになっている例も存在しているようです。
最近、ジンバブエ国立科学技術大学(NUST)に所属する生態学者アラン・セバタ氏ら研究チームは、昔のアフリカの人々の活動が肥沃な土壌を生み出していると報告しました。
鉄器時代の牧畜民がウシの糞を特定のスポットに蓄えたことで、今では様々な種類の草が生い茂り、草食動物たちの人気スポットになっていたのです。
研究の詳細は、2023年10月29日付の学術誌『Journal of Arid Environs』に掲載されました。
アフリカの草食動物は、鉄器時代の牧畜民が住んでいた場所で草を食べることを好む
植民地時代以前のアフリカ南部と東部の牧畜民にとって、ウシは重要な存在でした。
ウシたちは、「物資の運搬」「酪農」「食肉」など多方面で役立ったのです。
このウシを含む家畜を世話するため、牧畜民は「クラール(kraal)」と呼ばれる囲いを使用しました。
ウシたちは日中サバンナの牧草地で草を食べ、夜にはクラールの中に集められて外敵から保護されていたのです。
そしてある学者によると、牧畜民が新しい土地に移動するまでの数年間、ウシの糞はクラールに蓄えられたようです。
つまりクラールが作られた場所とは、膨大な肥料が蓄えられたスポットであり、何世紀にもわたって土壌に豊富な栄養素を与えてきました。
これまで生態学者たちは、これらのスポットで多種多様な草が生えていることに注目してきました。
また、ウシの糞が密集して土の層を形成することで、大きな樹木が成長しづらいという特徴も観察してきました。
こうした背景にあって、今回、セバタ氏ら研究チームは、これらのスポットを動物たちがどのように利用しているか調べることにしました。
彼らはアフリカのジンバブエにあるシャンガニ・ホリスティック牧場(Shangani Holistic Ranch)で、昔クラールが作られた4つのスポットを特定しました。
これらの土壌からは宝石、骨、陶器などが発見されており、クラールが作られたのは「およそ1800年前のアフリカ鉄器時代」だと推定されています。
そしてチームが土壌を分析したところ、周囲のサバンナの土壌よりもリンとカルシウムがより豊富に含まれていると判明しました。
これらの栄養素が多様性のある草の成長を促したと考えられます。
また、設置したカメラ映像を確認したところ、インパラやクーズーが、樹木が生い茂る周辺の地域よりも、かつてクラールがあったこれらスポットで草をよく食べていることが分かりました。
多種多様な草をたくさん食べることができるため、草食動物たちに人気だったのですね。
加えて研究チームによると、このスポットには「高い木が無く、草食動物が捕食者の接近を把握しやすい」というメリットもあるようです。
石器時代にクラールが作られた場所は、現代では「安心して食事を楽しめる憩いの地」へと変化していました。
今回の研究結果は、現代の問題を解決するのに役立つ可能性があります。。
ここ数十年でアフリカの開発は進んでおり、動物たちの貴重な餌場が失われています。
現代でも、もしかしたらクラールのように「ウシの糞を山積みにする」ことで、草食動物たちに新たな憩いの地を提供できるのかもしれません。
参考文献
African animals prefer to graze in spots once inhabited by Iron Age humans
元論文
The role of ancient human settlements in creating nutrient hotspots in a savanna ecosystem, central Zimbabwe
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。