現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、うえまつそうの新連載「島流し奇譚」がスタート。この連載では現役教師ならではの他にはない実話怪談を紹介する。
普段、私は怪談の語り部だけでなく都内の高校で体育の先生もしている。
学校というのは昔々から怖い噂や話題が絶えない場所であるが、20年勤続してきた身として言わせてもらうと「怖い話がない学校などひとつもない」。
それほどに学校という世界…いや異世界にはそんな話が付き物となっている。生徒、先生、用務員さん、事務員さん、それぞれの立場からもたくさんの怪談を聞く事がある。
しかもそのひとつひとつが生々しく地域性が絡んでくるところからさらなるリアリティを感じることができる。
もちろん学校だけが特別な場所ではないとは思うが、中で働いている人間の体験談をちゃんと聞く機会はなかなかないと思うので、この連載を通して学校のリアル体験談を皆さんにお届けしたい。
今回のお話は私が初めて赴任した学校での体育科の先輩の小林先生(仮名)から聞かせていただいた体験談。
第1回「時空を超えた窓…新築校舎に赴任した教師が見たあり得ないもの」
小林先生が以前勤めていた高校は、建てたばかりの新築でピカピカの学校だったそう。
トイレにはウォシュレットがついており、体育館にも冷暖房完備、エレベーターまでついている快適な環境。
グラウンドの設備も素晴らしくて、働きやすく良い学校に来れてよかったなぁと思っていたある日、ふと気づいたことがひとつあった。
グラウンドから校舎を見ると4階建、各階4つの教室の窓が見えるのだが、その4階の一番右側の教室の大きな窓のさらに右側に少し間隔をあけてもうひとつだけ窓が見えた。
その窓に気づいたのは赴任してから3ヶ月ほど経ったころだったそうだが、新築の校舎には似つかわしくない何やらどんよりとした雰囲気でその日は天気の良い日だったのにも関わらず中が薄暗く見える。
端っこにまとめられているカーテンも茶色くくすんでボロボロだった。
明らかな違和感を感じて、午前中の授業を終えて昼休み、4階まで上がってその窓があったであろうその場所に向かうとそこは…綺麗な真っ白い壁で入り口がどこにもない。
おかしい…誰に聞いてもそんなところに部屋はないと言う。
午後の授業のときにグラウンドからまた校舎を見ると午前中に見えていたそのどんよりとした窓はなくなっていたそうだ。
「おかしいな、疲れてるから気のせいかな、幻覚を見たかな」そう思い迎えた放課後、部活を終えた生徒たちが帰宅し薄暗くなった夕方のグラウンド。
小林先生が倉庫などの戸締りを終えて帰ろうとしながらふと校舎のその窓を見ると…また明らかに古めかしいの窓が存在していた。
やはり気のせいではなかった。さっきはなかったのに、と呆然とその窓を見ていると、その部屋の奥から防災頭巾のようなものを頭に被った、戦時中を思わせる古めかしい服装をした小学生くらいの女の子がヌッと現れて、無表情のまま窓際に立つと窓をカラカラカラカラ…と開け始めた。
すると中から風が吹いたかのようにカーテンが外にビュウバサバサバサッと力強くなびいた。そしてその開いた窓に少女が無表情のままググっと乗り出し、体を外に出したかと思うと校舎の外側の壁を掴んでまるで蜘蛛のように壁を掴みゆっくりゆっくりと降りてくる!
その姿が恐ろしすぎてパニックで動けない小林先生。しかしその女の子は青白い顔をしながら変わらず無表情のままゆっくりゆっくり降りて来て地上へと着いた。そして小林先生の存在が見えていないのかそのままゆっくりと猫背で歩き出し、学校の外へゆらりゆらりと出ていった。
訳はわからないがなんとなく追いかけなければと思い、距離をとってバレないように追う小林先生。女の子は学校を出てまだまだゆらり…ゆらり…と猫背のまま歩いて行く。数十メートルほど行ったところにある通称「かいわれ橋」という小さな川にかかる橋にさしかかると、その女の子の頭だけが急にグルリとこちらに向いて「あははははは…」と口を大きく開けて笑いながら両手をぶらりと上に挙げ、そのまま橋から真っ逆様に落ちて行った!
ふと我に返った小林先生「おい!その橋の下、いまは水が流れてない!」
慌ててかけより、かいわれ橋から下を覗くと…数メートル下の水のないコンクリートの地面の上には、頭がスイカのように割れ、大量の血を流した女の子が倒れていた。
急いで学校に戻り他の先生の助けを呼んで走って戻ったが、そこにはもうその女の子も、流れていた血も跡形もなく消えていたそうだ。
「あのときの出来事は鮮明に覚えてるんですうえまつ先生。いまでもあの古めかしい教室、ボロボロのカーテン、あの女の子、夢に出てくるほどに…」
のちに調べてみるとその通称かいわれ橋…年月を経てそう呼ばれるようになったそうだが、そのまたさらに昔地元の人に呼ばれていた名前が「かちわれ橋」だったと云われている。
かつてそこに落ちて亡くなった女の子の無残な状態からとった名前なのだろうか。いまでもそのかいわれ橋はその新しい校舎の近くに存在している。
文=うえまつそう
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提供元・TOCANA
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