従来からあるクレジットカード決済に加えて、近年ではスマホ決済、流通系電子マネー、交通系ICカードなどのキャッシュレス決済の利用者が増えている。現在の日本ではキャッシュレス決済はどれほど普及しているのか?普及しない理由や今後の展望を探る。

日本でのキャッシュレス決済の普及率18.4%

2015年時点での日本のキャッシュレス決済比率(キャッシュレス支払手段による年間支払金額÷国の会計最終消費支出)は18.4%であり世界の中でも低位にある。

上位層を見てみると、第1位韓国89.1%、第2位中国60.0%、第3位カナダ55.4%、第4位イギリス54.9%、第5位オーストラリア51.0%、第6位スウェーデン48.6%となっており、日本の普及率はこれら国々に遠く及ばない(経済産業省「キャッシュレス・ビジョン(2018年4月)」より)。

日本のキャッシュレス決済の内訳

凸版印刷グループのONE COMPATH(ワン・コンパス)が、2019年5月15日に「キャッシュレス決済とポイントカードの意識調査」を発表した。

国内最大の電子チラシサービス「Shufoo!」を利用する既婚女性を対象にした本調査では、キャッシュレス決済を「1ヵ月に1回以上利用する」利用頻度第1位はクレジットカード(71.4%)で、第2位は流通系電子マネー(53.0%)、第3位は交通系ICカード(31.7%)、第4位は後払い式電子マネー(8.4%)、第5位はQRコード式(6.6%)の順だった。

この調査結果から現状ではキャッシュレス決済の手段はクレジットカードが主流であり、最近話題になっているPayPayやメルペイ、LINE PayなどのQRコード式決済システムはほんの一部の利用に限られているのがわかる。

キャッシュレス決済先進国の決済手段の主流は?

先ほどの「キャッシュレス・ビジョン」では、キャッシュレス決済が日本より先行しているスウェーデン、韓国、中国の現状も詳しく紹介されている。

スウェーデンはキャッシュレス決済先進国であり、1990年代初頭の金融危機を機に国を挙げてキャッシュレス化を推進。また冬季の現金輸送の困難さや人手不足、強盗などの犯罪対策として広まった。現在では「現金拒否」の店舗も存在する。

クレジットカード、デビットカードによる支払いはもちろんのこと、Swish(スマートフォンアプリを使った個人間送金・支払サービス)の利用も普及している。2017年10月末のスウェーデン統計局による調査では、Swishはスウェーデンの総人口のうち約60%が利用するデファクトスタンダードになっている。

韓国がアジアでキャッシュレス決済の先陣を切った理由としては、1997年の東南アジア通貨危機の影響で韓国国内の景気が急激に落ち込んだことがある。政府は実店舗などの脱税防止や消費活性化を目指してクレジットカード利用促進策を実施した結果、クレジットカードの利用が急拡大した。

2017年4月からは韓国中央銀行による「コインレス」パイロットプログラムも始まっており、釣り銭を硬貨ではなく電子マネーで返す取り組みが行われている。

中国では偽札問題や脱税問題、現金の印刷・流通コストが深刻化しており、2002年3月に中国国内で決済システムやルールが刷新され、同時期よりインターネットが急速に普及した。

さらに、同一アプリから各種支払、ホテルの予約、映画チケットの購入などができるAlipay(アリペイ)が誕生したことで一気にキャッシュレス決済化が進行した。

日本でキャッシュレス決済が進まなかった理由

日本では早くからクレジットカードのネットワークが標準化されており、2000年以降はSuicaをはじめとした電子マネーの登場やそれに伴うインフラ整備が進められてきた。

それにもかかわらず、日本でキャッシュレス決済が浸透してこなかったのは「現金に対する高い信頼性」や「世界に類を見ない治安の良さ」といった日本の良さが図らずも足かせになっていると考えられる。

日本では世界トップクラスの高精度な偽造防止対策のおかげで偽札が出回りにくく、また現金を持ち歩いたり自宅で保管したりしても盗難に遭うリスクは低い。さらに実店舗での会計処理は迅速、正確で街中ではATMの数も多く現金を引き出しやすい環境も整っている。

こうした社会的背景に加えて、クレジットカードで支払いできない実店舗も多い。そのためクレジットカードを負債と考えて現金支払を選ぶ人が減らないという事情からも、キャッシュレス決済が進まない。

「キャッシュレス・ビジョン」では、中小・零細事業者の多い飲食店でクレジットカード支払対応が浸透していない点も指摘されている。

クレジットカードなどのキャッシュレス決済対応システムの導入コストや利用料の負担、利用者の少なさなどによってシステムの導入にメリットを感じられないと考える事業者が多いことが理由として挙げられている。

2027年にはキャッシュレス決済の比率4割という目標

国は2017年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」において、2027年までにキャッシュレス決済の比率を4割程度まで目指すと定めている。

日本では労働者人口の減少が深刻であり、生産性の向上は極めて重要な課題であると位置付けられている。現金を好む国民性とは裏腹に、増え続ける現金の流通、管理、支払いコストは企業や国の大きな負担にもなっている。このような課題の打開策がキャッシュレス決済の浸透であると結論付けられているのだ。

現在、国と企業・関係機関が連携して、税制面での優遇措置やあらゆるキャッシュレス決済システムの検討・実証などが行われている。目標達成には現金を好む人々が納得できるキャッシュレス決済の利便性を提供し、実際に消費者が試す機会を増やすことも重要になるだろう。

キャッシュレス決済にはデファクトスタンダードが必要

今後キャッシュレス決済の浸透が実現すれば、国として喫緊の課題である労働力不足や生産性の向上を克服できる糸口になるだけでなく、支払いに関するビッグデータを活用して新産業の創造も期待できる。

そのためにもキャッシュレス決済推進の起爆剤となるように、統一規格の整備や、スウェーデンのSwish、中国のアリペイのようなデファクトスタンダードの登場が切に望まれる。

文・近藤真理(フリーライター)
 

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