10歳を境に人間への関心が高まる
なぜ子供たちは人命をあまり重視していないのか?
その答えは子供たちの年齢に隠れていました。
2018年に行われた子供たちの関心度を調査する研究では、4歳の子供では犬・猫・イルカなど身近な動物のほうが警察官や病人などより高い関心を惹き付けましたが、10歳になると逆転を起こし、動物より人間のほうにより高い関心を示しました。
この研究ではさまざまな対象の絵が描かれたカードを配置する過程が含まれており、子供にとって手前側のほうが関心が高い存在となっています。
幼い子供の場合、上の図のように手前側には動物がおおくみられますが、年齢が上がって大人社会に関わる頻度が増えていくと、病人や障がい者など社会的な弱者や警察官など弱者を守る存在を手前側に置くようになりました。
このことから年齢が増えるにつれて子供たちは関心が動物と人間が等しく混ざった状態から、人間中心に変化していくことを示します。
また2020年に行われた研究では、人間の命のほうが動物の命よりも重要であるとする概念が、発達の後期段階(10歳以降)に現れる可能性が示されています。
そのため研究者たちは、人間への興味の高まりが、人間の命を重視する結果に結びついている可能性があると述べています。
加えて、研究者たちは子供たちに行われる教育も原因の一つになり得ると述べています。
子供たちは親や教師からヒトには「やさしくしなさい」と教わりますが、幼い子供たちにとってにヒトとは人間と動物の両方を含めたものである可能性があります。
子供向けのテレビ番組で擬人化した動物キャラが多くみられるのも、大人に比べて子供たちの動物に対する親しみが、人間に匹敵するほど強いからだと言えるでしょう。
そのためトロッコ問題においても幼い子供たちは人間に偏った選択が行われません。
しかし成長にともなって認知機能が大きく伸び、人間への関心が高まると、危険な状態にある人や困っている人に対して、大人と同じような人間優先の判断ができるようになると考えられます。
また今回の研究ではポーランド人とアメリカ人の比較も行われており、ポーランドの子供もアメリカの子供も、大人より動物に対する優先度が高いことが示されました。
さらにトロッコ問題の代りに「人間と動物のどちらにご褒美をあげるか?」といった問題でも、幼い子供たちは大人に比べ、動物に対する優先度が高くなっていました。
研究者たちは今後、他の文化圏の子供たちの傾向を調査し、この傾向が人類全体にみられるものなのかを確かめていく、とのことです。
元論文
Children Value Animals More than Adults do — a Conceptual Replication and Extension