刺繡ベースのタッチセンサーはどうやって機能しているのか?
研究チームが開発した刺繡ベースのタッチセンサーは、比較的シンプルな仕組みで動作します。
センサー自体は、「摩擦帯電」式です。
摩擦帯電とは、異なる種類の物質が接触した時に静電気が起きる現象のことです。
この現象を起こすため、新しい刺繡ベースのセンサーでは、2種類の導電性糸(マイナスに帯電する糸、プラスに帯電する糸)をそれぞれ下図のように、既存の布地に編み込みます。
片方が布地に沿って平らに編み込まれ、もう片方がアーチ形に編み込まれていますね。
編み込む際に重要なのは、それぞれの糸で作られた2層の繊維の間に隙間を作ることです。
研究チームは、刺繡時にスペーサーとして厚紙を配置し、編み込み終了後にそれを取り除きました。
これにより2層の間に隙間が生まれ、ユーザーが上から押した時だけ2つの層が接触。「電気信号のオンとオフ」が得られます。
つまり、従来の衣服に編み込むことができる刺繍ベースの「ボタン」または「スイッチ」となるのです。
このタッチセンサーで得られたデータはマイクロチップに送られます。
そしてマイクロチップは情報を処理した後、パソコンやスマホなどに指示を送るのです。
1万回の圧力テストに合格!ただし洗剤が苦手
新しく考案されたセンサーがいくらか機能することは分かりましたが、気になるのは耐久性や正確性です。
耐久性に関しては、1万回以上の圧力テストをクリアし、問題なく機能することが分かりました。
また8000回にも及ぶ摩耗試験(専用の機械で試験布と摩擦布をこすり合わせる試験)の後でも、性能が劣化することはありませんでした。
ただし、衣服に必須な洗濯に関しては課題が残りそうです。
水洗いの後は特に大きな変化はありませんでしたが、洗剤で洗った後には、出力が著しく低下しました。
これは、洗剤に含まれる柔軟剤成分(界面活性剤)が糸に付着し、摩擦帯電の特性を弱めるからだと考えられています。
さらに、衣服の一部がセンサーの役割を果たすため、体を動かすことで意図しない入力がもたらされる可能性があります。
加えて、センサーに対する押し方の違いや、温度や湿度などの環境要因によっても、正しく入力されないケースが出てくるでしょう。
研究チームによると、機械学習を用いることでそのような誤作動を減らすことができ、正確性を高められるようです。
もちろん、この研究は初期段階にあり、製品化するためにはさらなる実験や調整が必要です。
それでもこのアイデアは、「自分が普段着ている服でスマートグラスを操作したりゲームをプレイしたりする」という「新しいウェアラブルデバイス」の可能性を秘めています。
参考文献
NC State Researchers Use Machine Learning To Create a Fabric-Based Touch Sensor
元論文
A clickable embroidered triboelectric sensor for smart fabric
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。