■ 人の入れ替わりが激しい?求人情報から見えてくる「W网絡科技」の姿

 求人サイトでは、たびたび募集が行われており、企業としての運営実態は確実にあるようです。募集項目は、プログラマーはじめWEB運営に関わる業務から、広告宣伝人員、ウェブフロント担当、プロダクトマネージャー、外国語の編集・翻訳者(タイ語、日本語など)。

 特に興味深かったのが次の求人です。

●新メディア運営編集者:

フェイスブックページの運営。主に記事編集。他のコンテンツを書き換えて盗作する(原文は「洗稿」)作業。

※新メディアとは=ソーシャルメディアアカウント、ウェブサイト、モバイルアプリなどの新メディアプラットフォーム。
※洗稿とは=資金洗浄(マネーロンダリング)になぞらえた言葉。「原稿洗浄(原稿ロンダリング)」の意。元の原稿を書き換え、出典を隠蔽し、著作権を回避するための手段とされる。いわゆる「盗作行為」。中国には「AI洗稿サイト」まで存在する。

●日本語編集者: -小ゲーム向け心理テスト問題の編集、スケジュール設定、コンテンツ追加

-Facebook日本語ページの運営、トラフィック誘導(原文は「導粉」)

-日本のページオーナーと連絡を取り、弊社プラットフォームとの提携や購入(買い取り)につなげる

※「導粉」とは=中国のSNSマーケティング用語。あるプラットフォームから別のプラットフォームにトラフィックを誘導することをさす。 ――――――――

 求人の中で「洗稿」という言葉をはっきりと使っていることに驚きました。これは他人の作品を改編して発表するという「盗作行為」の意味が含まれています。

「もふもふ動画」はただの無断転載アカウントではない?その正体に迫る<後編>
(画像=『おたくま経済新聞』より 引用)

 そして日本語編集者の求人説明には心当たりしかありません。もふもふ動画が誘導していたまとめサイトの中に、怪しい「心理テスト」が埋め込まれていることがありました。どうやら閲覧数(PV)を伸ばすための試みらしく、どれも10問くらいの設定。これは情報提供に協力してくれたBさんも把握していました。

 次に「フェイスブック日本語ページの運営とトラフィック誘導」。これは要するにSNSアカウントを運営し、自社のプラットフォームに誘導する仕事。フェイスブックに限らず、Xや他のSNSでも行っている可能性は十分あると思います。

 最後の「日本のページオーナーと連絡を取り~提携」、の部分ですがこれも心当たりがあります。W网絡科技は過去に、X(当時はTwitter)上で手当たり次第に声をかけ、まとめサイトへのリンクを張ってくれる人を勧誘していた形跡があります。

 リンクを張る仕事の作業内容は2つあり、バズツイートにリンクを張って宣伝する行為(これは星野とのやりとりの中でも同じ説明がありました)、インフルエンサーの場合には自分のアカウントにまとめサイトのURLをポストして紹介する、というものです。

「もふもふ動画」はただの無断転載アカウントではない?その正体に迫る<後編>
(画像=『おたくま経済新聞』より 引用)
「もふもふ動画」はただの無断転載アカウントではない?その正体に迫る<後編>
(画像=『おたくま経済新聞』より 引用)

 やはり「W网絡科技」の求人内容を見る限り……無断転載専門のSNSアカウントを運営している条件は十分そろっているとしか言えず。しかも「買い取り」まで書いているわけですから。

 余談ですが、「W网絡科技」の求人口コミは散々でした。「残業が多い」「プレッシャーきつい」「突然解雇がありえる会社」「行くな!」など、ややブラックな模様。

 そして日本語に関する求人の給与は6000元~1万5000元(日本円で約12万~29万)でした。

■ M科技のホームページに書かれていた企業情報はほぼほぼ本当だった件

 というわけで、M科技のホームページに書かれていた企業情報はほぼほぼ本当。運営方法が怪しい、連絡しても返事がない、実態がわかりづらい、というだけで、まさか実在する企業とは……。

 ただし「W网絡科技/W科技」自体の会社ホームページは最後まで見つかりませんでした。中国語が話せる人にも調べて貰いましたが、見つけられたのは企業検索サイトにある登記情報と、求人サイトに載せられた求人情報のみ。

 現在では、求人サイトの企業ページが公式ホームページの役割を果たしているといってもいいかもしれません。「100~499名」の規模の会社にホームページがない、というのもおかしな話ですが。

 それにしても再び現れた星野はなぜこうも無警戒に事実を話してくれたのか?最初不思議でしかたありませんでしたが、会社情報、求人情報、口コミを見るに……意外と中では細かく情報交換できていないのかもしれません。入れ替わりも激しいようですし。

 よって、仕事の問題点に気づきづらい環境、加えて求人に「洗稿」と堂々と書くレベルなので、中国社会では無断転載やパクリに対する罪の意識がよっぽど薄いのかも。人によっては全く無い可能性すらあります。

 星野から受けた印象も、問題意識など一切ない(悪いことなどしていない)、という感じ。会社情報を正しく出していることもあり、意外と中の人たちは「まっとうなサービス」だと信じているのかもしれませんね。

 ただこれ以上、星野と話をしても埒があかない&まだ会話の中でしつこく「貴方様の持っているアカウントを見せていただきますでしょうか」と聞いてくるので、こちらの正体を明かしてアカウントも教えてみました。

 星野のLINEアカウントにたどり着いた経緯や、正式にインタビューを申し込みたいこと……。すると、今度は既読がついたままスルー。その後、10日以上たった現在まで一切の回答が得られていません。

「もふもふ動画」はただの無断転載アカウントではない?その正体に迫る<後編>
(画像=『おたくま経済新聞』より 引用)