ところで、マクロン大統領は今月25日、パリのソルボンヌ大学での講演の中で欧州防衛の強化を訴えたばかりだ。同大統領は大統領選出直後の2017年9月にもソルボンヌ大学で共通の防衛軍を持つ自立したEU像を描いている。2回目のソルボンヌ大学での演説はその意味で同じ路線だが、トーンは異なっていた。オーストリア国営放送(ORF)のプリモシュ・パリ特派員は「マクロン氏の7年前の演説は決して楽観的ではないにしても、まだ情熱的で明るさがあったが、2回目のソルボンヌ大学での演説では、悲観的なトーンがあった」と解説していた。
実際、マクロン大統領は演説の最後に、「現代の世界で楽観的になることは難しい。ヨーロッパ人は将来の危険な進展を予測し、対処するために、明確な思考が重要だ」と述べている。7年前のようなエネルギッシュな情熱は失われ、説教者のような雰囲気がある。
マクロン氏が2017年に要求した共同防衛政策は、ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、EUの最優先課題の一つとなってきた。同氏は「民主主義秩序の敵に対して、自分自身を主張できる唯一のチャンスは、共通の防衛を更に発展させることだ」と信じている。しかし同時に、右派ポピュリストが台頭し、主権国家を強調し、欧州の舵取りを奪おうとしている。マクロン氏は「ヨーロッパの夢が破れる可能性がでてきている。ヨーロッパは死ぬかもしれない」と警告を発している。
ウクライナ戦争ではNATOの地上軍のウクライナ派遣を提案し、武器問題でも米国製の武器ではなく、メイド・イン・ヨーロッパの武器が必要であり、そのために生産拠点を確立していかなければならない。すなわち、欧州の防衛産業の構築だ。ロシアとの直接な軍事衝突を恐れるドイツは「マクロン氏の提案はウクライナ戦争をエスカレートさせる危険な提案」と受け取っている。
ウクライナ支援問題でもEU27カ国は結束していない。ハンガリーやスロバキアは武器供与には反対だ。そのような現状で、欧州軍、地上軍の派遣、欧州独自の核抑止力といった論議はEU内の分裂を更に加速させる危険性が出てくるが、マクロン氏の欧州防衛論、核の抑止力強化は欧州が生き延びていくために避けて通れないテーマとなってきた。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年4月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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